学校法務の研究室

弁護士法人小國法律事務所の公式ブログです。
労働法、私立学校法、学校教育法の話題をつぶやいています。

白票の取扱い(補足)

一昨日の記事で、理事会決議の際の白票について少し言及しましたが、もう少し詳しく考えてみたいと思います。

一昨日の記事というのは、こいつです。↓
 理事会の決議要件(寄附行為施行細則)

わかりやすくするために、具体的な事例を作っておきましょう。

【事例】
・現任の理事総数・・・15人
・理事会に出席した理事の人数・・・8人
・投票の結果・・・賛成4、反対3、白票1

欠席者がちょっと多い気がしますが、気にせず元気にいきましょう。
この事例の理事会決議は、可決となるでしょうか、否決となるでしょうか。
それとも、そもそも決議自体が不成立となるでしょうか。

いくつかの考え方があり得ます。

◇A説:白票は、出席者にカウントしない。
◇B説:白票は、出席者にカウントするが、投票者にはカウントしない。
◇C説:白票は、出席者にカウントし、投票者にもカウントし、賛成票にはカウントしない。

A説は、定足数を判断するときに欠席者扱いするという考え方です。
上記の【事例】だと、出席者が7人となるので、定足数未達となります。
つまり、可決・否決の判断以前に、理事会決議自体が不成立です。
(法的には、理事会決議が不存在である、と言います。)

B説とC説によると、白票は、定足数を判断するときには出席者扱いです。
したがって、上記の【事例】では、出席者8人なので、定足数は充足します。

このうちB説は、可決・否決を判断するときの分母から白票を引く、という考え方です。
この考え方によると、7人中4人が賛成したので、この議案は可決ですね。

これに対し、C説は、可決・否決を判断するときの分母から白票を引かず、賛成票にもカウントしない、という考え方です。
この考え方によると、8人中4人の賛成となり、過半数の賛成がないので、この議案は否決です。

個人的には、理事会の席にいて投票した以上、欠席扱いは不自然だと思っています。
また、理事会決議の可決要件は、原則として「出席者の過半数」です(改正法42条1項)。
「反対より賛成が多い」という要件ではありません。
白票は、少なくとも賛成ではないですから、「出席者の過半数」が賛成したかどうかを考える際には、反対と同じ扱いにせざるを得ません。
ということで、私はC説が妥当だと思っています。
一昨日の記事も、C説を前提に条文案を作りました。

A説、B説、C説のどれを採用するかは、それぞれのお好みです、
ただ、B説は、定足数の判断では出席としつつ、可決要件の判断では欠席と同じ扱いにするのが少々不自然なので、やめておいた方がいいと思います。

いちばんダメなのは、細則などで白票の取扱いを決めていなかったために、投票の後、可決か否決かわからなくなるパターンです。
A~Cのどれが妥当か、という議論以前に、そもそもルールが決まっていないと、どうしようもないです。
細則でも、理事会内の申合せでも何でもいいので、どのルールを採用するかは決めておきましょう。


執筆:弁護士 小國隆輔

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著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



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2024-06-04



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理事会の決議要件(寄附行為施行細則)

本日は、理事会の決議要件を、寄附行為施行細則に定めてみます。

理事会決議については、普通決議、特別決議、特殊決議の3つに分けて、寄附行為作成例第20条に定められています。
長くなるので、第20条第1項だけ貼り付けておきます。

 (決議)
 第20条 理事会の決議は、法令及びこの寄附行為に別段の定めがある
  場合を除くほか、決議について特別の利害関係を有する理事を除く
  理事の過半数が出席し、その過半数をもって行う。

別にこの条文だけでも不都合はないように思えますが、実際に理事会をやってみると、これどうするんだっけ? という場面が結構あります。
寄附行為施行細則で、ちょっとした疑問を解決しておくと、何かと安心ですね。

例えば、次のような条文を置いてみたらいいんじゃないかな、と思っています。

 (定足数の判断)
 第××条 理事会の定足数の充足は、議案ごとに、決議の時点で判断し
  なければならない。

 (決議の方法)
 第××条 理事会の決議は、口頭、挙手、投票のいずれかの方法で行う。
 2 口頭による決議は、議長から出席者に対し、異議がないか問う方法で
  行うことができる。
 3 投票による決議は、記名投票によって行う。

 (特別利害関係人の退席)
 第××条 決議について特別の利害関係を有する理事は、当該議案の
  審議を開始するときに、退席しなければならない。
 2 前項の規定にかかわらず、議案の説明を行わせる場合その他必要が
  あると認める場合には、決議を行う時まで、当該理事を会議に同席
  させることができる。

 (白票等の取扱い)
 第××条 投票の際に白票があった場合は、出席者に算入し、賛成票に
  算入しない。
 2 決議の際に退席又は棄権した者は、出席者に算入しない。


特に、白票の取扱いは、後々トラブルになることがあります。

きちんと決めておかないと、欠席扱いにすべきだ、賛成でも反対でもない票として数えるべきだ、など色々な意見が出てきて、可決・否決の判断ができなくなってしまいます。

上記の条文例では、投票した以上出席者にはカウントする(=定足数の算定で出席にカウントする)、賛成と書いていない以上賛成にはカウントしない(=実質的に反対票と同じ扱いになる)、というルールを採用しています。

もちろん、別のルールを採用しても構いません。
どのルールでもいいから、ルールが決まっていることが大事だということですね。


執筆:弁護士 小國隆輔

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理事会の招集通知(寄附行為施行細則)

本日からは、理事会の運営について、寄附行為施行細則で定めていこうと思います。

理事会に関する寄附行為作成例の条文は、13条、14条、18条~22条あたりです。
多いのでここには貼り付けないですが、皆さん見ておいてくださいね。
※寄附行為作成例の全文は、こちらからどうぞ。↓
寄附行為作成例(文部科学大臣所轄学校法人向け)(令和6年3月5日大学設置・学校法人審議会(学校法人分科会)決定)

繰り返しになりますが、寄附行為と同じ内容を細則に定める必要はありません。
寄附行為に書けない細かいことや、寄附行為を読んだだけではわからないことを、細則に書くのが基本的な作法です。

細則に何を書くかは自由ですが、例えばこんな感じで細則に定めればいいんじゃないかなー、という条文を並べていきます。
まず、招集に関する条文です。

 (招集)
  第××条 理事会の招集は、次のいずれかの方法で通知するものとする。
   (1) 文書を交付又は送付する方法
   (2) pdfファイルを電子メールで送信する方法
   (3) △△クラウドにアップロードしたpdfファイルを各理事が
     ダウンロードする方法
  2 前項第2号及び第3号のpdfファイルは、印刷できる設定にしなければ
   ならない。

ほとんどの学校法人の寄附行為では、理事会の招集を書面又は電磁的方法で通知する旨を定めています。
特に電磁的方法については、具体的に何をすればいいのかわからないので、細則で決めておくことがお勧めです。
上記の(2)、(3)と第2項は、電磁的方法の具体的な中身について、改正法&改正施行規則の定めに沿った内容です。
特に第2項は見落としがちなルールなので、細則に定めておくと安心ですね。

ちなみに、電磁的方法の一つとして、招集通知のデータを保存した媒体(CD-RとかUSBメモリとか)を交付又は送付する方法も可能とされています。
いやいや、そんなことするなら紙媒体を渡した方が楽でしょ…ということで、上記の条文では、この方法は採用しないことにしました。

あとはお好みですが、次のような条文を置いておくのもアリだと思います。

  3 寄附行為第18条第6項の「会議の1週間前まで」とは、招集通知を発した
   日と会議の日の間に、7日以上あることをいうものとする。

会社法の裁判例では、招集通知を発出する際の「X日前」とは、「中X日」と読みます。
たぶん、私立学校法も同じ解釈が採用されます。
つまり、「会議の1週間前」は、「中7日」と読むので、実質的には会議の8日前に招集通知を発送しなければなりません。
例えば、7月26日に理事会を開催したかったら、招集通知は、「7月19日まで」ではなく、「7月18日まで」に発送しなければなりません。
実務的に間違いを起こしやすい点なので、これも細則に書いておけば安心ですね。


執筆:弁護士 小國隆輔

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議長のお仕事の詳細(寄附行為施行細則)

本日から、寄附行為施行細則の条文案を作っていきたいと思います。

細則に何を定めるか、特に決まりはないのですが、次のような事項を定めることをお勧めしています。

・寄附行為を読むだけではわからない、手続きの詳細
  例:理事会の議長は何をすればいいのか
  例:評議員以外で、評議員会に同席できるのは誰か
・寄附行為に書かれた抽象的な用語の具体化
  例:理事会決議が必要な「多額の借財」は、いくら以上か
  例:電磁的方法としてどのようなものを用いるか
・寄附行為に従った事務処理を、どの部署が担当するか
  例:理事会議事録の作成・保管は、理事長室が担当する
  例:計算書類等の作成・保管は、経理部が担当する

前回の記事に書いた通り、寄附行為の条文をコピペすることは、基本的にNGです。
コピペすることが法律違反とは言いませんが、あまり意味がありません。
 ※前回の記事はこちらからどうぞ。↓
  寄附行為施行細則に何を書こう

ということで、まずは理事会の議長に関する条文を考えてみます。

次のとおり、寄附行為作成例の理事会の条文では、議長の決め方しか定められておらず、議長が何をすればいいのかわかりません。

 (運営)
 第19条 理事会に議長を置き、理事長をもって充てる。
 2 前条第2項及び第4項並びに第29条第2項の規定に基づき理事会を招集
  した場合における理事会の議長は、出席理事の互選によって定める。

寄附行為施行細則に、議長のお仕事を定めておけば、議事進行がスムーズにいきそうですね。
例えば、次のような条文を細則に置いてみてはいかがでしょうか。

 (議長の互選)
 第××条 寄附行為第19条第2項による議長の互選は、挙手又は投票のほか、
  出席理事が推薦し、他の出席理事に異議がないことを問う方法によって行う。
 (議長の職務)
 第××条 議長は、理事会を主宰し、その議事進行を行う。
 (開会及び閉会等)
 第××条 議長は、出席理事(オンライン会議による出席者又は書面若しくは
  電磁的方法による出席者を含む。)の人数が、寄附行為第××条の定足数を
  充足していることを確認しなければならない。
 2 理事会は、議長の開会宣言によって開始し、閉会宣言によって終了する。
 3 議長は、必要に応じ、理事会の途中で休憩を設けることができる。
 (議案)
 第××条 理事会の議題に対する議案は、議長が提出する。
 2 理事は、議長の許可を得て、議案を提出することができる。
 3 議案の提出者は、議案の趣旨及び内容を説明しなければならない。この
  説明は、当該議案を担当する部署の職員に行わせることができる。
 (出席者の発言)
 第××条 理事会の出席者が発言するときは、議長の許可を得なければならない。

なお、この記事では「寄附行為施行細則」という名称にしていますが、「寄附行為施行規則」「理事会会議規則」など、学内で使いやすい名称を採用してください。
寄附行為の下位規程であることがわかれば、名称は何でもいいということですね。

こんな感じで、細則の条文をぽちぽちと作っていこうと思います。

冊子にまとめたら売れますかね…?


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実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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寄附行為施行細則に何を書こう

寄附行為変更の作業が一段落した学校法人の方から、「寄附行為施行細則って、何を書いたらいい?」「そもそも必要?」といったご相談を受けることが増えてきました。

法的な正解は簡単で、「何を書くかは自由」「必要なら作ればいいし、必要なければ作らなくてもいい」です。

学校法人の実務でよく見るのは、寄附行為に書いていることと同じ内容を、寄附行為施行細則にも書くパターンです。
例えば、「理事会は、理事長が招集する」とか、「計算書類等は理事会の承認を得なければならない」とかですね。

これ、意味ないです。
というか、百害あって一利なし、と思っています。

寄附行為と細則に同じ内容を書くと、今後寄附行為の変更をする際に、細則の変更も必要になり、作業量が増えます。
日常の業務でも、寄附行為と細則の両方を毎回見ないといけないので、無駄な作業が増えます。
さらに、何かのミスで寄附行為と細則の内容にズレが生じると、どちらに従えばいいのかわからなくなり、とても困ります。

中には、細則に次のような条文があれば便利じゃないか、というご意見もあるようです。

 第〇条 次の事項は、理事会の決議によって決定しなければならない。
 (1) 理事長、代表業務執行理事及び業務執行理事の選定及び解職
 (2) 重要な資産の処分及び譲受け
 (3) 多額の借財
 (4) 以下略

要するに、私学法や寄附行為のあちこちに散らばっている理事会決議事項を、細則にまとめておけば便利だ! ということですね。
でも、これを細則に定めると、両方見ないといけないとかズレが生じたらどうするんだとか、上記の不都合がまともに生じてしまいます。
一覧表があった方が便利だというのなら、事務局のマニュアルなどに一覧表を付けておけば済むので、わざわざ細則に定める必要はありません。

ということで、次回以降、ときどきお休みもしつつ、寄附行為施行細則や、それ以外の附属規程について、ぼちぼちと考えていこうと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔

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事務所紹介
名称    :弁護士法人小國法律事務所
事務所HP:http://www.oguni-law.jp/
大阪弁護士会所属
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