令和4年5月20日に、文部科学省から「私立学校法改正法案骨子」が公表されました。
まだ改正法が成立したわけではないですし、骨子のとおりに法案が作られるとも限らないのですが、ご相談やセミナーのご依頼が増えてきました。
ということで、何回かに分けて、「骨子」の中身を見ていきたいと思います。
今回は、「九 その他」です。
ちなみに、骨子の全文はこちらからどうぞ。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/211221_00003.html
骨子の「九 その他」の内容は、次のとおりです。
九 その他
1 監事が子法人の業務を執行する理事・取締役や社員等を兼職することを禁止す
る。子法人から公認会計士又は監査法人の業務以外の業務で継続的な報酬を受け
ている者を会計監査人としてはならないこととする。
2 監事・会計監査人が子法人を調査対象とすることができるようにする。
3 役員等による特別背任、目的外の投機取引、贈収賄及び不正手段での認可取得
についての刑事罰を整備する。
4 理事会及び評議員会の議事録の作成・閲覧や画一的・早期の紛争解決に資する
訴訟制度の整備など、学校法人固有の事情の考慮を特段要しない事項について
は、他の法人制度を参考に導入する。
「その他」というタイトルのとおり、ごちゃごちゃといろいろ書かれています。
まず、1と2は、学校法人と子法人の関係です。
現在の私学法には、子法人という概念はないのですが、学校法人が100%出資して(又は50%超の出資をして)株式会社を設立することがあります。
骨子では、どのような場合に学校法人の子法人として扱われるのか定かでないですが、学校法人が株式の過半数を有する株式会社などが想定されます。
子法人の特徴として、①経済的には親法人(学校法人)と実質的に一体であること、②役員の選任・解任権を親法人が持つため、子法人の役員は親法人の意向に反した業務決定・業務執行を行いにくいことが挙げられます。
子法人からの給与や報酬で生計を立てている者は、親法人の偉い人(理事とか)に対して、物申すことは難しいでしょう。
そうすると、子法人で働く者は、親法人の監事としては不適任です。
骨子1の前半は、この観点に基づくものです。
会計監査人についても、監事と同様のことが指摘できます。
同一の会計監査人が、親法人・子法人双方の会計監査をすることは構わないのですが、監査業務以外で子法人から多額の報酬を受けていると、親法人の偉い人に物申すことが難しくなります。
骨子1の後半は、この観点から、親法人の会計監査人として不適任な類型を定めるものです。
骨子2は、親法人の監事や会計監査人に、子法人の業務の状況や財産の状況を調査する権限を与えるものです。
親法人と子法人は経済的には一体といえる関係なので、子法人の帳簿類等も監査の対象になるということですね。
骨子3は、次の事項について、刑事罰(懲役とか罰金とか)を創設するというものです。
①役員等による特別背任
②目的外の投機取引
③贈賄と収賄
④不正手段での出認可取得
同様の刑罰規定は、他の法人に関する法律でも、よく見かけます。
例えば、①~③は、一般法人法334条、335条、337条に、刑罰規定があります。
また、④は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律62条に、刑罰規定があります。
おそらく、これらの法律と同じような内容で、私学法にも刑罰規定が追加されるのでしょう。
骨子4の前半は、理事会・評議員会の議事録に関するルールに言及しています。
現在の私学法には、理事会・評議員会の議事録に関する条文が何もなく、全て寄附行為の定めに委ねられています。
学校法人によって、議事録の記載事項や、署名・押印者などが微妙に異なっており、登記手続の際に寄附行為の内容を説明する必要があるなど、不要な手間を生じることがあります。
議事録の形式面が一律に定まることにより、不要な事務処理を省くことにつながるかもしれません。
議事録の閲覧についても、改正法では何らかの手当てをするようです。
おそらく、理事・監事・評議員等が、理事会・評議員会の議事録を閲覧することができるようにするのだろうと思います。
骨子4の後半は、他の法人制度を参考に、新たな訴訟制度を導入するとしています。
想定されるのは、次のような訴訟制度です。
・学校法人の設立又は合併の無効の訴え
・理事会決議又は評議員会決議の不存在又は無効確認の訴え
・理事会決議又は評議員会決議の取消しの訴え
・役員等の責任追及の訴え
・役員等の解任の訴え
・理事の業務執行の差止めの訴え
これらの訴訟制度は、他の法人制度でも見られるものですが、私学法に同様の訴訟の定めを置くとして、誰が原告として訴訟を提起するのか、訴訟に要する費用はだれが負担するかなど、検討すべき論点は多そうです。
私立学校法改正法案骨子に関する記事は、今回で終了です。
たくさん書いたので、(時間があれば)冊子にまとめて、どこぞで配布したいなぁ…と思っています。
配布より販売のほうがいいのですが、そんなに売れるとも思えないですし、たぶん無償でばら撒くのだろうと思います。
執筆:弁護士 小國隆輔
※個別のご依頼、法律顧問のご相談などは、当事務所ウェブサイトのお問い合わせフォームからどうぞ。
まだ改正法が成立したわけではないですし、骨子のとおりに法案が作られるとも限らないのですが、ご相談やセミナーのご依頼が増えてきました。
ということで、何回かに分けて、「骨子」の中身を見ていきたいと思います。
今回は、「九 その他」です。
ちなみに、骨子の全文はこちらからどうぞ。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/211221_00003.html
骨子の「九 その他」の内容は、次のとおりです。
九 その他
1 監事が子法人の業務を執行する理事・取締役や社員等を兼職することを禁止す
る。子法人から公認会計士又は監査法人の業務以外の業務で継続的な報酬を受け
ている者を会計監査人としてはならないこととする。
2 監事・会計監査人が子法人を調査対象とすることができるようにする。
3 役員等による特別背任、目的外の投機取引、贈収賄及び不正手段での認可取得
についての刑事罰を整備する。
4 理事会及び評議員会の議事録の作成・閲覧や画一的・早期の紛争解決に資する
訴訟制度の整備など、学校法人固有の事情の考慮を特段要しない事項について
は、他の法人制度を参考に導入する。
「その他」というタイトルのとおり、ごちゃごちゃといろいろ書かれています。
まず、1と2は、学校法人と子法人の関係です。
現在の私学法には、子法人という概念はないのですが、学校法人が100%出資して(又は50%超の出資をして)株式会社を設立することがあります。
骨子では、どのような場合に学校法人の子法人として扱われるのか定かでないですが、学校法人が株式の過半数を有する株式会社などが想定されます。
子法人の特徴として、①経済的には親法人(学校法人)と実質的に一体であること、②役員の選任・解任権を親法人が持つため、子法人の役員は親法人の意向に反した業務決定・業務執行を行いにくいことが挙げられます。
子法人からの給与や報酬で生計を立てている者は、親法人の偉い人(理事とか)に対して、物申すことは難しいでしょう。
そうすると、子法人で働く者は、親法人の監事としては不適任です。
骨子1の前半は、この観点に基づくものです。
会計監査人についても、監事と同様のことが指摘できます。
同一の会計監査人が、親法人・子法人双方の会計監査をすることは構わないのですが、監査業務以外で子法人から多額の報酬を受けていると、親法人の偉い人に物申すことが難しくなります。
骨子1の後半は、この観点から、親法人の会計監査人として不適任な類型を定めるものです。
骨子2は、親法人の監事や会計監査人に、子法人の業務の状況や財産の状況を調査する権限を与えるものです。
親法人と子法人は経済的には一体といえる関係なので、子法人の帳簿類等も監査の対象になるということですね。
骨子3は、次の事項について、刑事罰(懲役とか罰金とか)を創設するというものです。
①役員等による特別背任
②目的外の投機取引
③贈賄と収賄
④不正手段での出認可取得
同様の刑罰規定は、他の法人に関する法律でも、よく見かけます。
例えば、①~③は、一般法人法334条、335条、337条に、刑罰規定があります。
また、④は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律62条に、刑罰規定があります。
おそらく、これらの法律と同じような内容で、私学法にも刑罰規定が追加されるのでしょう。
骨子4の前半は、理事会・評議員会の議事録に関するルールに言及しています。
現在の私学法には、理事会・評議員会の議事録に関する条文が何もなく、全て寄附行為の定めに委ねられています。
学校法人によって、議事録の記載事項や、署名・押印者などが微妙に異なっており、登記手続の際に寄附行為の内容を説明する必要があるなど、不要な手間を生じることがあります。
議事録の形式面が一律に定まることにより、不要な事務処理を省くことにつながるかもしれません。
議事録の閲覧についても、改正法では何らかの手当てをするようです。
おそらく、理事・監事・評議員等が、理事会・評議員会の議事録を閲覧することができるようにするのだろうと思います。
骨子4の後半は、他の法人制度を参考に、新たな訴訟制度を導入するとしています。
想定されるのは、次のような訴訟制度です。
・学校法人の設立又は合併の無効の訴え
・理事会決議又は評議員会決議の不存在又は無効確認の訴え
・理事会決議又は評議員会決議の取消しの訴え
・役員等の責任追及の訴え
・役員等の解任の訴え
・理事の業務執行の差止めの訴え
これらの訴訟制度は、他の法人制度でも見られるものですが、私学法に同様の訴訟の定めを置くとして、誰が原告として訴訟を提起するのか、訴訟に要する費用はだれが負担するかなど、検討すべき論点は多そうです。
私立学校法改正法案骨子に関する記事は、今回で終了です。
たくさん書いたので、(時間があれば)冊子にまとめて、どこぞで配布したいなぁ…と思っています。
配布より販売のほうがいいのですが、そんなに売れるとも思えないですし、たぶん無償でばら撒くのだろうと思います。
執筆:弁護士 小國隆輔
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