令和4年5月20日に、文部科学省から「私立学校法改正法案骨子」が公表されました。
まだ改正法が成立したわけではないですし、骨子のとおりに法案が作られるとも限らないのですが、ご相談やセミナーのご依頼が増えてきました。
ということで、何回かに分けて、「骨子」の中身を見ていきたいと思います。
今回は、「五 評議員・評議員会」の前半です。
ちなみに、骨子の全文はこちらからどうぞ。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/211221_00003.html
骨子の「五 評議員・評議員会」の前半は、次のとおりです。
五 評議員・評議員会
評議員及び評議員会については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施する。
1 理事と評議員の兼職を禁止することとする。また、評議員の下限定数は、理事
の定数を超える数まで引き下げることとする。
2 評議員の選任は、評議員会が行うことを基本としつつ、理事・理事会により選
任される者の評議員の定数に占める数や割合に一定の上限を設けることとする。
3 教職員、役員近親者等については、それぞれ評議員の定数に占める数や割合に
一定の上限を設けることとする。
1は、理事と評議員の兼職禁止と、評議員の下限定数の引き下げです。
現行法では、理事と評議員の兼任は、特に禁止されていません。
学校法人の実務でも、全理事が評議員を兼ねることは、珍しくないように思います。
ただ、理事だけで評議員会の過半数を占めることができないように、評議員の定数は、理事定数の2倍を超える数にすることが求められています(私学法41条2項)。
骨子では、理事と評議員の兼任を禁止する代わりに、評議員の定数は、理事の定数よりも多ければよいこととされています。
そうすると、改正法施行時に、新たに評議員のなり手を探す必要はない、ということになるのでしょう。
とはいえ、理事と評議員の兼任禁止により、評議員会の運営には大きな影響が生じます。
例えば、評議員が15人、そのうち7人が理事と評議員を兼任しているという学校法人で考えてみましょう。
理事が全員評議員会に出席すれば、あと1人の出席で、過半数の出席を確保することができます。
骨子の記載を前提にすると、改正法施行後は、この学校法人では、評議員8人、理事兼任者なし、ということになります。
評議員会の定足数(過半数)を確保するには、少なくとも5人に出席してもらわなければなりません。
骨子では、学外評議員の割合を高めることも示唆されているので、評議員会の定足数確保は、新しい悩みになるかもしれません。
2は、評議員の選任機関に関するものです。
理事の選任・解任、寄附行為変更の承認などの権限を評議員会が持つとすれば、評議員の選任権を誰が持つのかは、とても重要な問題です。
骨子では、評議員の選任は、評議員会で行うことを原則としています。
理事・理事会が評議員を選任することも許容するようですが、評議員全体に占める割合に上限を設けることとされています。
この上限の数字によって、評議員会と理事会の関係性は変わりそうですが、具体的な数字は今のところ不明です。
3は、どのような属性の人を評議員に選任するか(選任してはいけないか)、という問題です。
現行法では、職員評議員(私学法44条1項1号)の人数に制限はないですし、役員の親族が就任することも、特に制約されていません。
骨子では、これらの属性の人を評議員に選任することは許容しつつ、人数や割合に上限を設けることとしています。
評議員会の監視・監督機能の強化を目指す観点からは、監視・監督される人(職員)や、理事の親族によって評議員会の多数を占めることは、適切ではないと考えられたものです。
個人的には、学校法人の業務決定・業務執行から遠い人を中心にすることが、適正なガバナンスに資するんだ…という議論は、理解できないものではないです。
ただ、学校法人に利害関係がなく、かつ、学校内の事情を知らない人たちばかりで評議員会を構成しても、それはそれで監視・監督機能を損なうのではないか、不安が残ります。
この辺りのバランスのとり方は、難しいのでしょうね。
「五 評議員・評議員会」の後半は、また別の記事で。
執筆:弁護士 小國隆輔
※個別のご依頼、法律顧問のご相談などは、当事務所ウェブサイトのお問い合わせフォームからどうぞ。
まだ改正法が成立したわけではないですし、骨子のとおりに法案が作られるとも限らないのですが、ご相談やセミナーのご依頼が増えてきました。
ということで、何回かに分けて、「骨子」の中身を見ていきたいと思います。
今回は、「五 評議員・評議員会」の前半です。
ちなみに、骨子の全文はこちらからどうぞ。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/211221_00003.html
骨子の「五 評議員・評議員会」の前半は、次のとおりです。
五 評議員・評議員会
評議員及び評議員会については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施する。
1 理事と評議員の兼職を禁止することとする。また、評議員の下限定数は、理事
の定数を超える数まで引き下げることとする。
2 評議員の選任は、評議員会が行うことを基本としつつ、理事・理事会により選
任される者の評議員の定数に占める数や割合に一定の上限を設けることとする。
3 教職員、役員近親者等については、それぞれ評議員の定数に占める数や割合に
一定の上限を設けることとする。
1は、理事と評議員の兼職禁止と、評議員の下限定数の引き下げです。
現行法では、理事と評議員の兼任は、特に禁止されていません。
学校法人の実務でも、全理事が評議員を兼ねることは、珍しくないように思います。
ただ、理事だけで評議員会の過半数を占めることができないように、評議員の定数は、理事定数の2倍を超える数にすることが求められています(私学法41条2項)。
骨子では、理事と評議員の兼任を禁止する代わりに、評議員の定数は、理事の定数よりも多ければよいこととされています。
そうすると、改正法施行時に、新たに評議員のなり手を探す必要はない、ということになるのでしょう。
とはいえ、理事と評議員の兼任禁止により、評議員会の運営には大きな影響が生じます。
例えば、評議員が15人、そのうち7人が理事と評議員を兼任しているという学校法人で考えてみましょう。
理事が全員評議員会に出席すれば、あと1人の出席で、過半数の出席を確保することができます。
骨子の記載を前提にすると、改正法施行後は、この学校法人では、評議員8人、理事兼任者なし、ということになります。
評議員会の定足数(過半数)を確保するには、少なくとも5人に出席してもらわなければなりません。
骨子では、学外評議員の割合を高めることも示唆されているので、評議員会の定足数確保は、新しい悩みになるかもしれません。
2は、評議員の選任機関に関するものです。
理事の選任・解任、寄附行為変更の承認などの権限を評議員会が持つとすれば、評議員の選任権を誰が持つのかは、とても重要な問題です。
骨子では、評議員の選任は、評議員会で行うことを原則としています。
理事・理事会が評議員を選任することも許容するようですが、評議員全体に占める割合に上限を設けることとされています。
この上限の数字によって、評議員会と理事会の関係性は変わりそうですが、具体的な数字は今のところ不明です。
3は、どのような属性の人を評議員に選任するか(選任してはいけないか)、という問題です。
現行法では、職員評議員(私学法44条1項1号)の人数に制限はないですし、役員の親族が就任することも、特に制約されていません。
骨子では、これらの属性の人を評議員に選任することは許容しつつ、人数や割合に上限を設けることとしています。
評議員会の監視・監督機能の強化を目指す観点からは、監視・監督される人(職員)や、理事の親族によって評議員会の多数を占めることは、適切ではないと考えられたものです。
個人的には、学校法人の業務決定・業務執行から遠い人を中心にすることが、適正なガバナンスに資するんだ…という議論は、理解できないものではないです。
ただ、学校法人に利害関係がなく、かつ、学校内の事情を知らない人たちばかりで評議員会を構成しても、それはそれで監視・監督機能を損なうのではないか、不安が残ります。
この辺りのバランスのとり方は、難しいのでしょうね。
「五 評議員・評議員会」の後半は、また別の記事で。
執筆:弁護士 小國隆輔
※個別のご依頼、法律顧問のご相談などは、当事務所ウェブサイトのお問い合わせフォームからどうぞ。