学校法務の研究室

弁護士法人小國法律事務所の公式ブログです。
労働法、私立学校法、学校教育法の話題をつぶやいています。

私学法改正法案㉓ 評議員による資料の閲覧請求

本日も、私立学校法の改正法案を、ぽちぽちと読み込んでいます。

改正法案の掲載ページはこちら。↓
 ◎私立学校法の一部を改正する法律案

改正法では、評議員は、次の書類の閲覧や謄本・抄本の交付、データの提供などを、学校法人に請求できるようになりました(68条)。

  ①寄附行為
  ②理事会の議事録
  ③評議員会の議事録
  ④会計帳簿と関係資料
  ⑤貸借対照表、収支計算書、事業報告書、これらの附属明細書
  ⑥監査報告、会計監査報告
  ⑦財産目録、役員・評議員名簿、役員・評議員の報酬支給基準(閲覧のみ)

現行法の解釈では、評議員が個人として何かの権限を持つことはなく、裁判例でも、学校法人が評議員個人に、資料の閲覧等を認める必要はないとされていました(東京高裁平成8年6月20日判決)。

改正法は、従前の解釈を改めて、評議員に資料の閲覧等の権限を与えました。
基本的に、学校法人は閲覧等を拒むことができません。

で、問題なのは、改正法の下では、理事と評議員の兼職は全面禁止、職員である評議員は全体の3分の1までとされたことです。
要するに、評議員には、学外の方が多数含まれるということです。

特に、理事会の議事録は、学校法人の機密情報が含まれるので、普通に考えれば学外秘の資料です。
なのに、評議員には学外の方が含まれ、かつ、改正法で秘密保持義務を課されることもないので、機密情報の流出を防ぐことができません。

もちろん、評議員の方が機密情報を漏らしたり悪用したりすることは滅多にないと思うのですが、「やろうと思えばできる」状況があること自体が、リスク管理としては落第点です。

せめてもの予防策として、評議員選任時に、秘密保持義務を記載した就任承諾書や契約書を提出してもらうべきでしょう。

個人的に、法令上の守秘義務を負う人々(弁護士とか)だけで評議員を固めたら大丈夫なのかなー、と考えてみたりもしたのですが、まあ止めといた方がいいんでしょうね。
学外評議員が全員弁護士なんて、不自然極まりないですし。


執筆:弁護士 小國隆輔

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私学法改正法案㉒ 評議員会の招集


私立学校法の改正法案、参議院を通過して成立しましたね。
5月8日に、令和5年法律第21号として公布されました。

原案どおり可決されたので、本日も、いつもと同じリンクから、私立学校法の改正法案を、ぽちぽちと読み込んでいます。

改正法案の掲載ページはこちら。↓
 ◎私立学校法の一部を改正する法律案


本日は、評議員会の招集方法について確認していきます。

現行法では、「理事長が招集する」とだけ定められていて(現行法41条3項)、招集手続きの詳細は寄附行為に委ねられていました。
寄附行為作成例を参考に、会議の7日前までに招集すること、開催の日時・場所・会議に付すべき事項(議題)を招集通知に記載すること、などを定めている学校法人が多いです。


改正法では、評議員会の招集のルールが、ごっそり変わります。

まず、招集権者は、「理事」とされました。
寄附行為にどう定めるかにもよりますが、理事長以外の理事が招集することも可能です。

次に、招集通知の記載事項が法定されました。
次の4つです。
  ①会議の日時及び場所(70条2項1号)
  ②会議の目的が決まっているときは、会議の目的となる事項(70条2項2号)
  ③会議の目的となる事項に関する議案について、議案が確定しているときは
   その概要、議案が確定していないときはその旨(70条2項3号)
  ④このほか、文部科学省令で定める事項(70条2項4号)

①は、まあいいですよね。
②は、会議の議題を指します。「監事選任の件」とかですね。
③は、議題に対する具体的な議案です。「〇〇氏を監事に選任する件」とかですね。
議案は、招集の段階で確定している必要はありません。
④にどのような事項がやってくるのか、今のところ謎です。

悩ましいのは、①~④は、理事会決議で決めなければならないことです(70条2項)。
評議員会の招集通知は、評議員会の開催日の1週間前までに発出しないといけないので(70条4項)、評議員会の1週間以上前に、理事会を開催する必要があります。

評議員会の諮問事項の場合、次のような流れです。
 ・理事会で何を諮問するか決定(=評議員会の議題決定)
 ・理事会で、1週間以上先の日程の評議員会開催日を決定
 ・招集通知発送
  ((1週間以上の期間を空ける))
 ・評議員会で意見聴取
 ・同日、理事会決議で業務決定

ということは、現在やっているような、理事会→評議員会→理事会を同日開催する実務は、改正法のもとでは難しくなるかもしれません。

例えば、年度末の理事会で、次年度の1年分の評議員会の日程と議題を決めてしまうなど、実務上の工夫の余地はありそうです。


執筆:弁護士 小國隆輔

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改正私立学校法が成立(今後のスケジュールなど)

私立学校法の改正法案、4月26日に参議院で可決・成立しました。
なんというか、法案提出までに何年もかかったわりに、スピード成立でしたね。。

ソースはこちら↓
議案審議経過情報

附則や関係する法律も含めて、提出時法案から修正なしでの成立です。
予定通り、令和7年4月1日に、改正法が施行されることとなります。

ざっくりですが、今後のスケジュールをまとめてみました。
未確定なものが多いので、ほんとにざっくりです。
学校法人側でやるべきことにアンダーラインを付けています。

 R5.4.26 改正法成立

 R5.12~R6.1頃 省令の改正、寄附行為作成例の改正などの公表

 R6.12~R7.1頃 寄附行為の変更の認可申請?

 R7.4.1 改正法の施行日 & 変更後の寄附行為の施行日

 R7.5 令和6年度決算に関する評議員会(附則4条1項)

 R7.6 改正法施行後最初の定時評議員会
     理事と評議員の資格・構成に関する経過措置終了(附則2条1項)
     →ここまでに理事と評議員の兼職を解消する
      会計監査人の設置(附則9条1項、大臣所轄学校法人等のみ)
      常勤監事の選定(附則9条2項、大臣所轄学校法人等のみ)

 R8.6 令和7年度決算に関する定時評議員会
     特別利害関係人の人数に関する経過措置終了
      (附則2条2項、大臣所轄学校法人等のみ)

 R9.6 令和8年度決算に関する定時評議員会
     特別利害関係人の人数に関する経過措置終了(附則2条2項)
     役員・評議員の任期に関する経過措置終了(附則3条)


新法に基づく役員・評議員の選任の時期は、各学校法人の寄附行為の内容によって異なります。
理事選任機関や評議員の選任方法は寄附行為で決めることができるのですが、無理なスケジュールにならないように、余裕をもって作りこみたいところです。

どの学校法人でも、令和7年6月の定時評議員会終結までは現在の役員・評議員が在任できます。
役員・評議員の任期にスキマを作らないようにするために、令和7年4月~6月の間に、新法に基づく役員・評議員を選任する法人が多くなりそうです。

ところで、寄附行為の作り方を間違えると、新法に基づいて役員・評議員を選任する前に、現在の役員・評議員が退任してしまうこともあり得ます。
例えば、評議員の定数を減らす条文を令和7年4月に施行すると、最初の定時評議員会の前に、多数の評議員がいなくなってしまいます。
評議員会が機能しなくなる事態を避けるためには、寄附行為の附則に、評議員の定数に関する条文は令和7年6月の定時評議員会終結時に施行する旨を定めるなどの工夫が必要です。

短期間に大量の認可申請が押し寄せるので、所轄庁が細かくチェックしてくれるとは限りません。
学校法人側で注意しておかないといけないですね。


執筆:弁護士 小國隆輔

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参議院文教科学委員会での審議状況(私学法改正法案)

先日参議院文教科学委員会へ付託された私学法改正法案、4月25日に委員会で可決されたようです。

ソースはこちら↓
議案審議経過情報

付託から約1週間での可決ということで、衆議院よりさらにスムーズに進んでいます。
統一地方選も終わりましたし、あとは参議院本会議を残すのみですね。

改正法案は文教科学委員会でも修正なしで可決されたので、このまま原案通り改正法成立となりそうです。

年末~年始頃になるそうですが、政令・文部科学省令・施行通知・寄附行為作成例などが公表されれば、改正法関係の情報が出揃うことになります。

ということで、あちらこちらのセミナーの準備と解説書の執筆、頑張ります。
 ※ 初夏~秋の私の予定には、まだまだ空きがございます。


執筆:弁護士 小國隆輔

★改正私学法のセミナー開催(おしらせ)★

本日は、ちょっとだけ宣伝です。

一般社団法人私学労務研究会という私学団体で改正私学法のセミナーが実施されるのですが、講師役を仰せつかりました。

次の日程で、東京・札幌・京都の3場開催です。

 ◇6月8日(木)東京=アルカディア市ヶ谷
 ◇6月23日(金)札幌=ACU-A会議室(アスティ45内)
 ◇6月29日(木)京都=京都リサーチパーク

昼食と無料相談会、非売品の解説冊子つきで、朝10時から午後3時まで、みっちりしゃべります(頑張ります)。

それにしても、金曜日の札幌出張、いいですね。
関西以外の方には京都出張も嬉しいものだと聞きました。

この2~3年、出張がすごく少なかったと思いますので、改正法の勉強をしようとお考えの方や、そろそろ出張に行きたいな…という方は、ぜひお越しください。

セミナーの詳細やお申込みの手続きは、こちらです。↓
特別セミナー 徹底解説 令和5年私立学校法改正~改正法の基礎知識から実務対応まで~


執筆:弁護士 小國隆輔
事務所紹介
名称    :弁護士法人小國法律事務所
事務所HP:http://www.oguni-law.jp/
大阪弁護士会所属
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