労働契約法18条による無期転換制度は、2013年(平成25年)4月1日に施行されました。
改正法の附則では、施行後8年を経過した場合に、「その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」とされています。(平成24年8月10日法律第56号附則3項)
ところが、施行からわずか1年後の2014年4月1日に、大学の任期付教員と研究者等に関する例外規定が施行され、2015年4月1日には、高度専門職者と定年後退職者に関する例外規定が施行されました。
労働契約法18条は、有期労働契約を、(使用者から見れば)強制的に無期労働契約に転換するというドラスティックな内容だったのですが、実務的にいろいろと支障を生じる内容だったため、早々に改正が加えられたようです。
何というか、人が働くルールに関する法律なのに、ベータ版みたいな内容で施行しておいて、頻繁に改正するような進め方はよろしくないなぁ、と思うところです。
ちなみに、8年経過時点での「必要な措置」ですが、今のところ立法措置は講じられていません。
さて、今回は、2014年4月1日に施行された例外規定のうち、大学の任期付教員に関する例外規定について整理してみます。
根拠法は、「大学の教員等の任期に関する法律」の第7条です。
一般に「任期法」と呼ばれているので、この記事でも「任期法」と呼びます。
任期法7条は比較的シンプルな内容で、次の2点の例外を定めています。
(1) 大学の任期付教員は、無期転換に必要な通算契約期間を、「5年超」では
なく「10年超」とする。
(2) 大学在学中に、大学設置者との間で有期労働契約を締結していた場合、
在学中の契約期間は、通算契約期間に算入しない。
このうち、(1)は、「10年ルール」と呼ばれる例外規定です。
任期付教員が無期転換権を得るためには、通算契約期間が10年超必要だということですね。
(2)は少しわかりにくい内容ですが、TA(ティーチング・アシスタント)やRA(リサーチ・アシスタント)などをしていた学生・院生が、同じ大学で任期付教員に任用された場合、通算契約期間はゼロから数え直す、ということです。
難しいのは、任期法7条の適用を受ける「任期付教員」の範囲です。
時折、大学で有期労働契約を締結している教員には、当然に10年ルールが適用されると認識されていることがありますが、明らかに誤解です。
詳細は任期法の法文に当たっていただきたいのですが、ざっくりまとめると、任期付教員の10年ルールを適用するためには、次の要件を満たす必要があると考えられます。
◇大学の教授、准教授、助教、講師又は助手であること(任期法2条2号)
◇本人の同意を得て、任期を定めていること(任期法2条4号、4条2項、
5条1項)
◇次の3つのいずれかに該当すること(任期法4条1項)
・先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究
組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の
確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき
・助教の職に就けるとき
・大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を
行う職に就けるとき
◇教員の任期に関する規則を定めていること(任期法5条2項~5項)
任期法に関する裁判例はとても少ないのですが、任期法4条1項1号の解釈について、次の2つの裁判例が公表されています。
◇京都大学再生医科学研究所の教授職を、任期法4条1項1号の類型に当たる
とした事例(大阪高判平17・12・28労判911・56)
◇任期法4条1項1号の「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」は
例示であり、任期付教員を任用できるのはこれに限定されず、大学に一定の
裁量が与えられているとした事例(広島高判平31・4・18労判1204・5)
任期法の例外規定については、非常勤講師にも適用されるのか、どのような教育研究であれば「先端的、学際的又は総合的」といえるのかなど、未解決の論点が複数あります。
個人的には、任期法は「講師」も含めた作りであることから、非常勤講師だという理由で適用を除外されることはないのだろうと思っています。
また、どのような教育研究が「先端的、学際的又は総合的」なのか、裁判所が法律を適用して判断することはできないですから、基本的に大学の裁量が尊重されるのだろうと思います。
なお、大学の任期付教員以外にも、「大学共同利用機関法人等」の職員のうち専ら研究又は教育に従事する者にも、任期法7条の例外規定が適用されます。(任期法6条~7条)
「大学共同利用機関法人等」に当たるのは、国立大学法人法別表第2に掲げられた法人と、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構及び独立行政法人大学入試センターです。(任期法2条3号)
だいぶ長くなってしまったので、任期法以外の例外規定は、別の記事で解説しようと思います。
執筆:弁護士 小國隆輔
改正法の附則では、施行後8年を経過した場合に、「その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」とされています。(平成24年8月10日法律第56号附則3項)
ところが、施行からわずか1年後の2014年4月1日に、大学の任期付教員と研究者等に関する例外規定が施行され、2015年4月1日には、高度専門職者と定年後退職者に関する例外規定が施行されました。
労働契約法18条は、有期労働契約を、(使用者から見れば)強制的に無期労働契約に転換するというドラスティックな内容だったのですが、実務的にいろいろと支障を生じる内容だったため、早々に改正が加えられたようです。
何というか、人が働くルールに関する法律なのに、ベータ版みたいな内容で施行しておいて、頻繁に改正するような進め方はよろしくないなぁ、と思うところです。
ちなみに、8年経過時点での「必要な措置」ですが、今のところ立法措置は講じられていません。
さて、今回は、2014年4月1日に施行された例外規定のうち、大学の任期付教員に関する例外規定について整理してみます。
根拠法は、「大学の教員等の任期に関する法律」の第7条です。
一般に「任期法」と呼ばれているので、この記事でも「任期法」と呼びます。
任期法7条は比較的シンプルな内容で、次の2点の例外を定めています。
(1) 大学の任期付教員は、無期転換に必要な通算契約期間を、「5年超」では
なく「10年超」とする。
(2) 大学在学中に、大学設置者との間で有期労働契約を締結していた場合、
在学中の契約期間は、通算契約期間に算入しない。
このうち、(1)は、「10年ルール」と呼ばれる例外規定です。
任期付教員が無期転換権を得るためには、通算契約期間が10年超必要だということですね。
(2)は少しわかりにくい内容ですが、TA(ティーチング・アシスタント)やRA(リサーチ・アシスタント)などをしていた学生・院生が、同じ大学で任期付教員に任用された場合、通算契約期間はゼロから数え直す、ということです。
難しいのは、任期法7条の適用を受ける「任期付教員」の範囲です。
時折、大学で有期労働契約を締結している教員には、当然に10年ルールが適用されると認識されていることがありますが、明らかに誤解です。
詳細は任期法の法文に当たっていただきたいのですが、ざっくりまとめると、任期付教員の10年ルールを適用するためには、次の要件を満たす必要があると考えられます。
◇大学の教授、准教授、助教、講師又は助手であること(任期法2条2号)
◇本人の同意を得て、任期を定めていること(任期法2条4号、4条2項、
5条1項)
◇次の3つのいずれかに該当すること(任期法4条1項)
・先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究
組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の
確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき
・助教の職に就けるとき
・大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を
行う職に就けるとき
◇教員の任期に関する規則を定めていること(任期法5条2項~5項)
任期法に関する裁判例はとても少ないのですが、任期法4条1項1号の解釈について、次の2つの裁判例が公表されています。
◇京都大学再生医科学研究所の教授職を、任期法4条1項1号の類型に当たる
とした事例(大阪高判平17・12・28労判911・56)
◇任期法4条1項1号の「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」は
例示であり、任期付教員を任用できるのはこれに限定されず、大学に一定の
裁量が与えられているとした事例(広島高判平31・4・18労判1204・5)
任期法の例外規定については、非常勤講師にも適用されるのか、どのような教育研究であれば「先端的、学際的又は総合的」といえるのかなど、未解決の論点が複数あります。
個人的には、任期法は「講師」も含めた作りであることから、非常勤講師だという理由で適用を除外されることはないのだろうと思っています。
また、どのような教育研究が「先端的、学際的又は総合的」なのか、裁判所が法律を適用して判断することはできないですから、基本的に大学の裁量が尊重されるのだろうと思います。
なお、大学の任期付教員以外にも、「大学共同利用機関法人等」の職員のうち専ら研究又は教育に従事する者にも、任期法7条の例外規定が適用されます。(任期法6条~7条)
「大学共同利用機関法人等」に当たるのは、国立大学法人法別表第2に掲げられた法人と、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構及び独立行政法人大学入試センターです。(任期法2条3号)
だいぶ長くなってしまったので、任期法以外の例外規定は、別の記事で解説しようと思います。
執筆:弁護士 小國隆輔