学校法務の研究室

弁護士法人小國法律事務所の公式ブログです。
労働法、私立学校法、学校教育法の話題をつぶやいています。

3月に選任されて、4月に就任した理事の任期(文科省説明資料より)

本日も、6月14日版の文科省説明資料のお話です。
文科省の説明資料は、こちらからどうぞ。↓
 ◎私立学校法の改正について(令和5年改正)

本日気になるのは、説明資料p103のQA7でございます。
とりあえず貼り付けておきましょう。

 Q7:役員や評議員を「選任した日」と「実際に就任する日」は同一日で
 なくてもよいか。
 また、「選任した日」と「実際に就任する日」が異なる場合、第32条
 第1項等の任期の終期を定める規定中「選任後寄附行為をもつて定める
 期間以内に終了する…」とされている「選任」とはいつのことを指す
 のか。【令和6年6月14日追加】
 A7: 「選任した日」と「実際に就任する日」は同一日でなくても
 構いません。
 また、第32条第1項等の任期の終期を定める規定中の「選任」とは、
 「実際に就任する日」を指します。

前提として、改正法では、「選任」と「就任」を意識的に使い分けています。

例えば、辞任又は任期満了によって理事に欠員が生じたときは、後任の理事が「就任」するまでは、理事の権利義務を継続するという条文があります(改正法34条1項)。
この条文は、理事がいない状態を予防するための条文なので、後任の理事の選任手続きをとるだけでは足りず、後任の理事が実際に就任するまでは理事の仕事を続けてください、ということですね。

で、問題のQA7です。

例えば、理事の任期について、寄附行為で、「理事の任期は、選任後2年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで」と定めているとしましょう。
さらに、令和8年3月1日に理事選任機関で選任の決議をして、同年4月1日に理事に就任した人がいるとしましょう。

文科省の見解によると、令和8年4月1日から理事の任期を起算します。
そうすると、「選任後2年以内に終了する会計年度のうち最終のもの」は令和9年度なので、令和10年定時評議員会終結時に、任期満了となります。

ふーんそうなんだ、という感じですが、よく考えたら、この見解、「選任」した時点ではなく「就任」した時点から任期を数えてないですかね。
実務的に見ても、この見解に従うと、就任の意思表示(=就任承諾書の提出)を意図的に遅らせることで、任期の起算日をずらすことができるという、不合理な事態が生じてしまいます。

ところで、一般社団法人、株式会社など、他の法人でも、役員の任期は、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち~」という定め方がされています(一般法人法66条、会社法332条)。
これらの法人では、「選任後2年以内」とは、就任を承諾した時点ではなく、選任手続きをした時点から起算するという解釈がとられています。
(熊谷則一『第2版 逐条解説一般社団・財団法人法』p171、奥島孝康ほか編『第2版 新基本法コンメンタール会社法2』p97[高橋美加]など)

長々と書いてきましたが、私の理解では、文科省の解釈は改正法の条文とずれていて、他の法人でとられている解釈とも異なるので、素直に従うのは避けた方がよさそうです。
実務的には、【 理事選任機関での選任決議→年度替り→実際の就任 】という時系列を辿った場合のみ、文科省の見解の不都合が顕在化します。
おそらく、定時評議員会終結時に理事に就任することがほとんどなので、年度が明けてから理事の選任決議を行うようにすれば、ややこしい法解釈の問題にぶつからなくて済むということです。


今日は細かい話でしたね…
最後の2~3段落だけ読んでもらえれば、たぶん大丈夫です。


執筆:弁護士 小國隆輔


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★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊


実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04


実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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今のうちに代表業務執行理事を選定できるか(文科省説明資料より)

6月14日版の文科省説明資料をぽちぽちと読み込んでいるのですが、???と思う記載がちらほらあるように思います。

あ、文科省の説明資料は、いつものリンク先からどうぞ。↓
 ◎私立学校法の改正について(令和5年改正)

特に気になったのがこちら。文科省説明資料p116のQA12です。

 Q12:現在、代表業務執行理事に相当する役職は置いておらず、令和7年4月1日
 から代表業務執行理事を置きたいと考えているところ、令和7年4月1日より前に開
 催する理事会で選定することは可能か。【令和6年6月14日追加】
 A12:可能です。

大前提として、新法と新寄附行為は、令和7年4月1日施行なので、令和7年3月31日以前には、新法・新寄附行為の条文はまだ効力を持っていません。
法的には、新法・新寄附行為の条文はこの世に存在しない、ということです。

なので、令和7年3月31日以前に、新法・新寄附行為に基づく手続きをとることはできません。
(現行法・現行寄附行為に基づいて、同じような手続きをとれることはあるかもしれないです。)

で、上記のQA12なのですが…

Qでは、現行寄附行為には代表業務執行理事に相当する役職(理事長以外に代表権を持つ理事)を置いていない学校法人が前提とされています。
Aでは、この学校法人で、令和7年4月1日より前(=令和7年3月31日以前)に、代表業務執行理事を選定する理事会決議を行うことが、可能という回答が記載されています。

・・・これはいったいどういうことでしょう?

法的には存在しない条文に基づいて、法的には存在しない役職を選定することができるというのは、法律学の回答としては、明らかに誤りです。
文科省説明資料p116のQA12の記載が何を言っているのか、もはや私には理解できません。

ちなみに、令和元年改正(中期事業計画や役員報酬基準が導入された改正)のときは、改正法の附則に、中期事業計画作成や役員報酬基準の策定に必要な手続きは新法施行前でも行うことができる、という経過措置が定められていました(令和元年法律第11号附則9項)。
これに対し、今回の法改正では、事前に準備行為を行うことができるという経過措置は置かれていません。

ということで、文科省説明資料p116のQA12のとおりに手続きをとると、万一訴訟等の法的係争が起きた場合に、代表業務執行理事の選定決議が無効と判断される可能性があります。
一弁護士としては、このQAの記載には従わず、新法・新寄附行為に基づく手続きは、令和7年4月1日以降に行う方が安全だと思っています。


執筆:弁護士 小國隆輔


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政省令、文科省説明資料など

ようやく、改正私学法に対応した政令(私立学校法施行令)と省令(私立学校法施行規則)が公表されました。
また、文部科学省の説明資料も更新されたようです。

掲載場所は、こちらのいつものURLです。
 ◎私立学校法の改正について(令和5年改正)

政省令と説明資料は、どちらもものすごい量なので、印刷は非推奨です。
時間をとって読み込んでみようと思いますが、そろそろ読み込むのも疲れてきた気がしなくもないです。

ちなみに、学校法人会計基準の改正は、まだ公表されていないようですね。
いったいいつになることやら……。


執筆:弁護士 小國隆輔


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任期をちょっと縮めたい(寄附行為の附則)

前回の記事は、改正法施行に伴って、役員・評議員の任期を少し伸ばしたいというお話でした。

逆に、役員・評議員の任期を少し(又はたくさん)縮めたいというご相談も、よくあります。

あ、前回の記事はこちらからどうぞ。↓
 任期をちょっと伸ばしたい(寄附行為作成例附則3項)


令和7年の定時評議員会のタイミングで、現任の役員・評議員全員に退任してもらい、定時評議員会終結時に新体制に移行したいという学校法人は、とても多いです。
全員の辞表を取りまとめるのがわかりやすいですが、人数が多い学校法人などでは、辞表の取りまとめも大変です。

そこで、現任の役員・評議員の任期を、令和7年定時評議員会終結時で満了するように変更する方法が選択肢に上ります。
ただ、この方法をとる場合に寄附行為にどう書けばいいのか、寄附行為作成例には条文の例がありません。
なければ仕方がない、自分で作るしかないですね。
ということで、次のような条文を寄附行為の附則に置くことが考えられます。

 4 この寄附行為の施行の際現に在任する役員又は評議員
  であって、令和7年度の定時評議員会終結時よりも後に
  任期が満了するものの任期については、その終期を令和
  7年度の定時評議員会の終結の時まで短縮する。

例えば、現在の任期が令和8年3月31日までの理事でも、この附則の定めによって、任期が令和7年定時評議員会終結時まで短縮され、その時点で任期満了退任となります。
ちょっと気になるのは、「寄附行為変更によって一方的に任期満了退任とさせられるのはおかしい!」「実質的に解任じゃないか!」と言って争いになる可能性です。

株式会社の取締役については、定款の変更によって任期を短縮した場合、短縮後の任期満了時に退任するという裁判例があります(東京地裁平成27年6月29日判決、名古屋地裁令和元年10月31日判決等)。
これらの裁判例では、短縮後の任期満了時にその取締役を再任しなかった場合、再任しないことについて正当な理由がないと判断されたら、(取締役に復帰させるのではなく)損害賠償責任が発生する可能性があるとされています。

個人的には、学校法人の役員・評議員についても同じ結論でいいんじゃないかなー、と思います。
ただ、株式会社の取締役に関する裁判例は、会社法339条2項を根拠としているのですが、この条文と同趣旨の条文が、私立学校法にはありません。
任期短縮の法的有効性について訴訟になると、裁判所がどんな判断をするか確実な見通しを立てにくいので、揉めることがないように、役員・評議員の皆様には丁寧に説明をして納得していただくことが大事です。

ちなみに、残り任期が短い人(令和7年3月31日までとか)、残り任期が長い人(令和9年3月31日までとか)、全員そろって令和7年定時評議員会終結時で退任にしたい場合、任期が短い人については延ばす、任期が長い人については縮めるという、両方を組み合わせることもできます。
この場合、寄附行為の附則に、任期伸長と任期短縮の条文を、両方置けばOKです。

例えば、こんな感じですね。

 3 この寄附行為の施行の際現に在任する役員又は評議員
  であって、令和7年度の定時評議員会の日よりも前に
  任期が満了するものの任期については、その終期を令和
  7年度の定時評議員会の終結の時まで伸長する。
 4 この寄附行為の施行の際現に在任する役員又は評議員
  であって、令和7年度の定時評議員会終結時よりも後に
  任期が満了するものの任期については、その終期を令和
  7年度の定時評議員会の終結の時まで短縮する。


役員・評議員の任期の取扱いは、今のメンバーの顔触れや残任期を見ながら決めなければならないので、学校法人ごとに留意点が異なります。
当事務所でご相談をお受けするときも、頭を悩ませることが多い論点の一つです。


執筆:弁護士 小國隆輔


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小國隆輔
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実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

任期をちょっと伸ばしたい(寄附行為作成例附則3項)

本日も、寄附行為作成例の附則を元気に見ていきましょう。

とりあえず、附則3項の条文を貼り付けます。

 3 この寄附行為の施行の際現に在任する役員又は評議員
  であって、令和7年度の定時評議員会の日よりも前に
  任期が満了するものの任期については、その終期を令和
  7年度の定時評議員会の終結の時まで伸長する。

少し前の記事で書いたとおり、改正法&新寄附行為施行時点(つまり、令和7年4月1日午前0時)で在任中の役員・評議員の資格・構成については、令和7年の定時評議員会終結時まで、旧ルールが適用されます。
この経過措置によって、定時評議員会終結時までは、理事と評議員の兼職が許されたり、特別利害関係人の就任制限を気にしなくてよかったりします。

あ、少し前の記事はこちらです。
  役員・評議員の定数、資格及び構成(寄附行為作成例附則2項)

ということは、令和7年4月1日午前0時より後、定時評議員会終結より前に役員・評議員の改選をすると、新しい役員・評議員には、直ちに新法・新寄附行為のルールが適用されます。
ということは、令和7年4月1日~定時評議員会終結のスキマ期間には、役員・評議員の中に、旧ルール組と新ルール組が混在することになります。
ということは、理事と評議員の兼職ができるのかできないのかよくわからなくなりますし、特別利害関係人のカウントができなくなってしまいます。

ということで、このスキマ期間に役員・評議員の改選はしない方が良いわけですね。

でも、令和7年5月31日とかに任期満了を迎える方が、いらっしゃるかもしれません。
多数の役員・評議員を欠員にするわけにもいかないので、放っておくと、スキマ期間に役員・評議員の改選が発生してしまいます。

そこで、寄附行為の附則に条文を置くことで、スキマ期間に改選が生じないようにしよう、というのが寄附行為作成例附則3項です。
ごちゃごちゃとわかりにくく書かれていますが、要するに、スキマ期間に任期満了を迎える人がいたら、定時評議員会終結まで改選を先送りにします、という条文です。

スキマ期間に改選期(任期満了)を迎える役員や評議員がいらっしゃる学校法人では、たぶん、寄附行為作成例附則3項のような条文は必須だろうと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔


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事務所紹介
名称    :弁護士法人小國法律事務所
事務所HP:http://www.oguni-law.jp/
大阪弁護士会所属
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