本日も、懲りずに裁量労働制のお話です。

裁量労働制は、業務の遂行手段、時間配分等の決定について、使用者が具体的な指示をしないという働き方です。
ざっくりいうと、いつ来ていつ帰っても仕事さえしていれば文句を言われない、という制度ですね。

そうすると、裁量労働制を適用されている教員から、「労働時間を自由に決めていいのなら、教授会に出席するかどうかも自由だ」とか、「授業時間は必ず出勤しないといけないというのは、裁量労働制と矛盾する」といった主張が出てくることがあります。

業務の遂行手段と時間配分を労働者が決めるという建前からすると、このような主張にも一理あるな、という気がしないではないです。
ただ、授業担当や教授会出席は、大学教授であれば、ほぼ確実にやらなければならない仕事です。
労基法・労基規則の解釈として、「大学における教授研究の業務」を裁量労働制の対象にしつつ、業務内容に授業や教授会が含まれる教員は対象外だというのは、少々無理があります。

今のところ、この議論について正面から述べた裁判例や通達は見当たらないようです。
人事・労務の実務では、学説を参照することはあまりないのですが、定評あるコンメンタール(法令の逐条解説)を頼ることにしましょう。

少し古い版ですが、西谷敏ほか編『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法』154頁〔藤内和公〕(日本評論社、初版、2012年)では、次のような説明がされています。


裁量労働制が「適用される労働者に対して、会議開催などのためにコアタイムを設定すること(部分的裁量労働制)も、その程度が裁量労働制の趣旨を損なうほどでなければ許されると解される。2003年に対象業務に大学における教授研究が追加されたことは、そのような理解を前提とする。・・〔中略〕・・大学教員では授業(準備を含めて)や会議などにつき、その時間の長さが労働時間の半分以下であれば、業務遂行方法および時間配分を指示することが許される。」

労働時間の半分までであれば、授業や会議等のために、具体的な日時に出勤を命じてもよいという解釈です。
学説では、労働者の個別同意が必要だという解釈も多いようですが、個人的には、上記コンメンタールの解釈が妥当と考えています。


執筆:弁護士 小國隆輔

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