昨日の記事で触れたとおり、働き方改革法によって、年5日の年休消化義務が創設されました。
この義務を履行できなかった場合(=労基法39条7項に違反した場合)にどうなるか、ときどきご相談をお受けします。

教科書的な回答をすると、労働基準監督署の指導や是正勧告の対象になること、悪質な場合には書類送検されて30万円以下の罰金(労基法120条1号)を科される可能性があること、この2点を説明することになります。
法学部の期末試験であれば、この回答で正解でしょうね。

ただ、労基法の条文をもう少しじっくり眺めてみると、長時間労働に関する刑罰(労基法32条違反、36条6項違反)と比べると、法定刑はだいぶ軽めです。
労基法32条違反、36条6項違反の罪には、法定刑として、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が定められています(労基法119条1号)。
おそらく、年休を取得するかどうかはもともと労働者が自由に決めるものであることから、長時間労働と比べると、年休消化義務違反は、違法とはいえそこまで悪質ではないという考え方なのでしょう。

労基法32条違反といえば、某大手広告代理店が、違法な長時間労働をさせていたとして、法人として罰金刑を受けたことは記憶に新しいところです(東京簡裁平成29年10月6日判決)。
この判決では、労基法32条1項(法定労働時間)違反の罪が複数成立するとして、50万円の罰金刑が言い渡されています。

会社の規模からすると、罰金の金額自体はとても小さなものですが、法人として有罪判決を言い渡されたことによる経営への影響は、とても大きかったのだろうと思います。

年休の話に戻りましょう。
年5日の年休消化義務を履行できなかった場合、理論上は労基法違反の罪が成立するので、労基署が本気を出せば、いきなり書類送検することができないわけではありません。
ただ、実務上、年休5日消化義務違反でいきなり書類送検されることはなく、まず指導と是正勧告が行われます。
指導・勧告を何度受けても無視し続けたような場合でなければ、刑罰を科されることはないということですね。

厚労省が作成した『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』という資料でも、次のような記載があり、まずは労基署による指導を行うことが想定されています。

「罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われますが、労働基準監督署の監督指導においては、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただくこととしています。」


それにしても、自分たちが作った資料に『わかりやすい解説』というタイトルを付けるあたり、他の資料がわかりにくいと自白しているように感じたのは、私だけでしょうか。


執筆:弁護士 小國隆輔

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