前回の記事で某大手広告代理店(電通)の刑事裁判に言及したので、東京簡易裁判所平成29年10月6日判決を、簡単に紹介しておこうと思います。
若手の従業員が長時間労働の結果自死に至ったことをきっかけに、違法な長時間労働が明るみに出た事案です。
刑事裁判で問題とされたのは、労基法32条1項違反の罪です。
法定刑が罰金刑だけなので、地方裁判所ではなく、簡易裁判所が扱う案件です(裁判所法33条1項2号)。
同種事案では、正式な刑事裁判ではなく略式手続きで罰金刑を科すことも多いのですが、社会的な影響の大きさからか、あえて正式な刑事裁判が行われた、やや珍しい事例でもあります。
さて、この判決で認定された労基法違反の内容は、次のようなものです。
◇ 36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)を、過半数組合ではない
労働組合と締結していた。つまり36協定は無効。
◇ 36協定が有効だと誤信して、複数の管理職が、部下に法定労働時間を超える
労働をさせていた。
◇ 時間外労働の時間は、36協定に定めた上限(1か月50時間)すら超えていた。
刑罰を科す根拠となったのは、1日8時間・1週40時間の法定労働時間を定める労基法32条1項違反です。
同条違反には、1罪ごとに30万円以下の罰金が定められており(労基法119条1号)、従業者が労基法違反をしたときは、事業主にも刑罰を科すこととされています(労基法121条)。
裁判所は、従業員が自死に至ったことなどの事案の重大性や、労基署の是正勧告を受けても形式的な対応に終始したことなどの悪質性を指摘して、罰金50万円としました。
人が亡くなっているのに罰金50万円で済むのか…、という感想があるかもしれません。
難しいところですが、労基法違反で罰することができるのは、あくまで、有効な36協定がないのに法定労働時間を超えて労働させたという点だけです。
どれほど社会に影響のあった事案でも、法律に定められていない刑罰を科すことはできない、ということですね(この考え方を、罪刑法定主義といいます)。
ところで、判決では、過半数組合でない労働組合と36協定を締結していた、だから36協定は無効だ、という判断がされています。
過半数組合がなければ、労使協定は過半数代表者と締結しなければならないことは、労務管理の基本なのですが……。
日本を代表する大企業で、いまだにこのような労務管理がされていたことは、少し驚きです。
私立学校でも、主に専任教職員が加入する労働組合と労使協定を締結していることがありますが、その労働組合が過半数組合かどうか、一度確認しておく方がよいかもしれません。
執筆:弁護士 小國隆輔
※個別のご依頼、法律顧問のご相談などは、当事務所ウェブサイトのお問い合わせフォームからどうぞ。
若手の従業員が長時間労働の結果自死に至ったことをきっかけに、違法な長時間労働が明るみに出た事案です。
刑事裁判で問題とされたのは、労基法32条1項違反の罪です。
法定刑が罰金刑だけなので、地方裁判所ではなく、簡易裁判所が扱う案件です(裁判所法33条1項2号)。
同種事案では、正式な刑事裁判ではなく略式手続きで罰金刑を科すことも多いのですが、社会的な影響の大きさからか、あえて正式な刑事裁判が行われた、やや珍しい事例でもあります。
さて、この判決で認定された労基法違反の内容は、次のようなものです。
◇ 36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)を、過半数組合ではない
労働組合と締結していた。つまり36協定は無効。
◇ 36協定が有効だと誤信して、複数の管理職が、部下に法定労働時間を超える
労働をさせていた。
◇ 時間外労働の時間は、36協定に定めた上限(1か月50時間)すら超えていた。
刑罰を科す根拠となったのは、1日8時間・1週40時間の法定労働時間を定める労基法32条1項違反です。
同条違反には、1罪ごとに30万円以下の罰金が定められており(労基法119条1号)、従業者が労基法違反をしたときは、事業主にも刑罰を科すこととされています(労基法121条)。
裁判所は、従業員が自死に至ったことなどの事案の重大性や、労基署の是正勧告を受けても形式的な対応に終始したことなどの悪質性を指摘して、罰金50万円としました。
人が亡くなっているのに罰金50万円で済むのか…、という感想があるかもしれません。
難しいところですが、労基法違反で罰することができるのは、あくまで、有効な36協定がないのに法定労働時間を超えて労働させたという点だけです。
どれほど社会に影響のあった事案でも、法律に定められていない刑罰を科すことはできない、ということですね(この考え方を、罪刑法定主義といいます)。
ところで、判決では、過半数組合でない労働組合と36協定を締結していた、だから36協定は無効だ、という判断がされています。
過半数組合がなければ、労使協定は過半数代表者と締結しなければならないことは、労務管理の基本なのですが……。
日本を代表する大企業で、いまだにこのような労務管理がされていたことは、少し驚きです。
私立学校でも、主に専任教職員が加入する労働組合と労使協定を締結していることがありますが、その労働組合が過半数組合かどうか、一度確認しておく方がよいかもしれません。
執筆:弁護士 小國隆輔
※個別のご依頼、法律顧問のご相談などは、当事務所ウェブサイトのお問い合わせフォームからどうぞ。