たまには弁護士っぽい記事を書こうということで、本日は裁判例の紹介をしてみようと思います。
ご紹介するのは、東京地裁令和4年3月28日判決(労働経済判例速報2498号3頁)で、大学の非常勤講師の労働者性を否定した、珍しい事例です。
一般に、大学の非常勤講師と大学設置者の契約は労働契約とされており、大学の非常勤講師は、労基法上も労契法上も労組法上も、労働者だと考えられています。
大学の非常勤講師については、雇止めなど多数の裁判例が公表されていますが、基本的に労基法・労契法・労組法等の労働法令が適用されることを前提にした内容です。
(一部の国立大学で、非常勤講師との契約を業務委託にして、労基法も労契法も適用しないという恐ろしい運用がされていると聞いたことがありますが…。最近は労働契約に切り替えるところが増えているようです。)
で、本日ご紹介する裁判例。
複数の講師が担当するオムニバス型の授業で、2コマ担当していた講師が、契約を更新してもらえなかったという事案です。
当該講師(原告)は、無期雇用と同視できる状況だった、又は契約更新への合理的期待があったなどとして、労契法19条の要件を充足する旨を主張し、労働契約上の地位を有することの確認を求めていました。
原告の主張に対し、裁判所は、原告は「労働者」じゃないから、そもそも労契法は適用されないと述べて、ばっさりと請求を棄却しました。
少し詳しく見ていきましょう。
労契法が適用される「労働者」は、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」を指します(労契法2条1項)。
具体的な判断は、事案ごとに諸事情を総合考慮するのですが、本件では次の事情が指摘されています。
①授業の具体的な方針や内容が、原告の裁量に委ねられていたこと
②外部講師の選定、スケジュール調整、試験の実施・評価、単位認定など
講義運営の根幹は別の常勤教員が担当していたこと
③実際に担当する授業の時間帯と場所が指定されていただけで、出退勤の
管理を受けていなかったこと
④年間収入が約57万円と少額で、社会保険料の徴収がなく、他の外部講師が
担当する授業を欠席しても委嘱料の減額がされなかったこと
⑤職務専念義務が課されず兼業も自由だったこと
このうち、①と③は、大学に限らず、労働者性が争われる事例でよく指摘される事情です。
労働契約の本質は、使用者の指揮命令下で労務を提供することにあるので、業務内容の詳細な指示や時間的・場所的拘束の有無は、重要な考慮要素です。
これに対して、④と⑤は、あまり重要じゃない気がします。
報酬の多寡は労働者か否かの判断と関係ないですし、所定労働時間が短ければ社会保険に加入できないので、社会保険料の徴収がないのは当たり前です。
また、大学教員は兼業可能なことが多いですし、非常勤職で兼業を禁止することはまずないでしょう。
個人的に注目したいのは、②です。
試験の実施・評価、単位認定など、大学に特有の事情が含まれています。
文科省のご見解によると、成績評価や単位認定は、大学設置者と雇用関係にある教員が行わなければなりません。
業務委託の授業担当者に任せると、大学ではなく外部業者が単位を認定することになってしまうからです。
一応、ソースはこちらです↓
大学が当該大学以外の教育施設等と連携協力して授業を実施する際の留意点について
この裁判例でも、原告が単位認定を行ったりしていたら、労働者性を肯定する方向へ傾いたかもしれませんね。
ということで、弁護士っぽいお話はここまでです。
年末になって、友人や同業者から、どこそこへ旅行に行くという話をよく聞くようになりました。
お正月前後には強力な寒波が襲来するそうなので、鉄道の遅延・運休や航空便の欠航・引返しなどが起きないよう、切に切に心からお祈り申し上げる次第です。(他意はありません。本当に。)
執筆:弁護士 小國隆輔
※個別のご依頼、法律顧問のご相談などは、当事務所ウェブサイトのお問い合わせフォームからどうぞ。
ご紹介するのは、東京地裁令和4年3月28日判決(労働経済判例速報2498号3頁)で、大学の非常勤講師の労働者性を否定した、珍しい事例です。
一般に、大学の非常勤講師と大学設置者の契約は労働契約とされており、大学の非常勤講師は、労基法上も労契法上も労組法上も、労働者だと考えられています。
大学の非常勤講師については、雇止めなど多数の裁判例が公表されていますが、基本的に労基法・労契法・労組法等の労働法令が適用されることを前提にした内容です。
(一部の国立大学で、非常勤講師との契約を業務委託にして、労基法も労契法も適用しないという恐ろしい運用がされていると聞いたことがありますが…。最近は労働契約に切り替えるところが増えているようです。)
で、本日ご紹介する裁判例。
複数の講師が担当するオムニバス型の授業で、2コマ担当していた講師が、契約を更新してもらえなかったという事案です。
当該講師(原告)は、無期雇用と同視できる状況だった、又は契約更新への合理的期待があったなどとして、労契法19条の要件を充足する旨を主張し、労働契約上の地位を有することの確認を求めていました。
原告の主張に対し、裁判所は、原告は「労働者」じゃないから、そもそも労契法は適用されないと述べて、ばっさりと請求を棄却しました。
少し詳しく見ていきましょう。
労契法が適用される「労働者」は、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」を指します(労契法2条1項)。
具体的な判断は、事案ごとに諸事情を総合考慮するのですが、本件では次の事情が指摘されています。
①授業の具体的な方針や内容が、原告の裁量に委ねられていたこと
②外部講師の選定、スケジュール調整、試験の実施・評価、単位認定など
講義運営の根幹は別の常勤教員が担当していたこと
③実際に担当する授業の時間帯と場所が指定されていただけで、出退勤の
管理を受けていなかったこと
④年間収入が約57万円と少額で、社会保険料の徴収がなく、他の外部講師が
担当する授業を欠席しても委嘱料の減額がされなかったこと
⑤職務専念義務が課されず兼業も自由だったこと
このうち、①と③は、大学に限らず、労働者性が争われる事例でよく指摘される事情です。
労働契約の本質は、使用者の指揮命令下で労務を提供することにあるので、業務内容の詳細な指示や時間的・場所的拘束の有無は、重要な考慮要素です。
これに対して、④と⑤は、あまり重要じゃない気がします。
報酬の多寡は労働者か否かの判断と関係ないですし、所定労働時間が短ければ社会保険に加入できないので、社会保険料の徴収がないのは当たり前です。
また、大学教員は兼業可能なことが多いですし、非常勤職で兼業を禁止することはまずないでしょう。
個人的に注目したいのは、②です。
試験の実施・評価、単位認定など、大学に特有の事情が含まれています。
文科省のご見解によると、成績評価や単位認定は、大学設置者と雇用関係にある教員が行わなければなりません。
業務委託の授業担当者に任せると、大学ではなく外部業者が単位を認定することになってしまうからです。
一応、ソースはこちらです↓
大学が当該大学以外の教育施設等と連携協力して授業を実施する際の留意点について
この裁判例でも、原告が単位認定を行ったりしていたら、労働者性を肯定する方向へ傾いたかもしれませんね。
ということで、弁護士っぽいお話はここまでです。
年末になって、友人や同業者から、どこそこへ旅行に行くという話をよく聞くようになりました。
お正月前後には強力な寒波が襲来するそうなので、鉄道の遅延・運休や航空便の欠航・引返しなどが起きないよう、切に切に心からお祈り申し上げる次第です。(他意はありません。本当に。)
執筆:弁護士 小國隆輔
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