本日も、私立学校法の改正法案を、ぽちぽちと読み込んでいます。

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 ◎私立学校法の一部を改正する法律案


本日は、「学校法人等の財産の処分に関する罪」、「偽りその他不正の手段により認可を受けた罪」、「役員等の贈収賄の罪」の条文を確認していきます。

まず、簡単な方から2つをつぶしておきましょう。

改正法案では、寄附行為所定の目的の範囲外において、投機取引のために学校法人の財産を処分した場合、「学校法人等の財産の処分に関する罪」という犯罪に当たることがあります。
この罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(併科されることもあります)です(159条)。

一昔前に、投機的な取引に学校法人の財産を突っ込んで大損を出した、という事例がいくつかありました。
民事裁判で、役員の損害賠償責任として数億円の支払いを命じた事例も出ています。
改正法の下では、民事だけでなく、刑事責任も問われることになります。

改正法案では、虚偽の内容を申請書に記載するなど、不正の手段を用いて認可を受けることも、犯罪とされています。
ただし、過失(事務処理のミスなど)によって申請書に事実と異なる記載があっても、刑罰が科されることはありません。
犯罪が成立するのは、原則として故意がある場合に限られるためです(刑法38条1項)。
この罪の法定刑は、6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です(162条)。


次に、改正法案では、役員等の贈収賄の罪が新設されました(158条)。

役員や会計監査人などが、その職務に関して不正の請託を受けて、財産上の利益を収受したときや、利益収受の要求・約束をしたときには、贈収賄罪が成立します。
この罪の法定刑は、5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金です(158条1項)。

「贈収賄」なので、財産上の利益を渡した側にも犯罪が成立します。
贈賄側には、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金が法定刑として定められています(158条2項)。

例えば、理事会が理事選任機関の場合に、「私を理事に選任してよ」と言って理事に賄賂を渡すと、受け取った理事も渡した人も、贈収賄の罪を犯したことになります。

・・・あれ?
評議員に賄賂を渡したらどうなるんでしょうね。
改正法案を見る限り、評議員の贈収賄罪に関する記載は、ありません。
ということは、評議員会が理事選任機関の場合に、「私を理事に選任してよ」と言って評議員に賄賂を渡しても、犯罪ではなさそうです。

学校法人のガバナンスは社会福祉法人とよく似ているのですが、社会福祉法人の評議員に同じようなお願いをして賄賂を渡すと、きっちり贈収賄罪が成立します(社会福祉法156条1項1号)。

これ、たぶん、私学法改正法案の方がおかしいですよね?
さすがにここは、国会の審議で修正を入れてほしいです。


執筆:弁護士 小國隆輔

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