たまには労務管理の話題ということで、給与のキャッシュレス決済(デジタル払い)解禁のお話です。

これまでは、給与は現金払いが原則で、例外的に、本人同意があれば、預貯金口座への振込や、一定の要件を満たす証券総合口座で支払うことができるだけでした(労基法24条1項、労基法施行規則7条の2)

今年4月1日施行の労基法施行規則で、現金払い・振込払いに加えて、デジタル払いが選択肢に加わります。
ただし、デジタルの支払先は、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(なんちゃらペイの運営業者と思ってください)が運営するものに限られます。
厚生労働大臣への指定申請ができるのは4月1日以降なので、実際にデジタル払いができるようになるのは、もう少し先になるかもしれません。

給与のデジタル払いをするためには、次の要件をすべて満たす必要があります(改正労基法施行規則7条の2第3号)。
 ①厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者を利用すること。
 ②書面又は電磁的記録により、労働者本人の同意を得ること。
 ③同意を得る際に、次のイ~ヘを説明すること(ざっくり要約してます)。
  イ 給与振込先の “〇〇ペイ” の口座残高(チャージ額)の上限が、
    100万円以下になっていること
  ロ 運営業者の破綻時には、口座残高が保証される仕組みがあること
  ハ “〇〇ペイ” の不正利用等で出金されたときでも、労働者に帰責事由が
    なければ、損失額全額が補償されること
  ニ  “〇〇ペイ” を利用しなくなっても、少なくとも10年間は、利用や
    出金が可能であること
  ホ  “〇〇ペイ” への資金移動は、1円単位で行えること
  ヘ  ATMなどを使えば、“〇〇ペイ” から1円単位で引き出せること

あー、ややこしいですね。
厚生労働省から、上記の説明が適切にできるひな形が公表されているので、実務的にはこのひな形を使うのでしょう。

なお、デジタル払いについては、厚生労働省から通達が出ているので、利用するのであれば、目を通しておくとよいでしょう。

「労働基準法施行規則の一部を改正する省令の公布について」(局長通達1)(令和4年11月28日基発1128第3号)

「賃金の口座振込み等について」(局長通達2)(令和4年11月28日基発1128第4号)


しかし、給与のデジタル払い、どれぐらい利用されるんでしょうか?
私もなんちゃらペイはよく利用しますが、個人的には、給与は現金か銀行振込で受け取りたいです。

来日直後の外国人労働者など、銀行口座の開設が難しい人が利用することが想定されているのかもしれません。
が、一時的なものであれば現金払いでもいいでしょうし、私立学校では、デジタル払いはあまり利用されないような気がします。


執筆:弁護士 小國隆輔

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