前回の記事は、改正法施行に伴って、役員・評議員の任期を少し伸ばしたいというお話でした。

逆に、役員・評議員の任期を少し(又はたくさん)縮めたいというご相談も、よくあります。

あ、前回の記事はこちらからどうぞ。↓
 任期をちょっと伸ばしたい(寄附行為作成例附則3項)


令和7年の定時評議員会のタイミングで、現任の役員・評議員全員に退任してもらい、定時評議員会終結時に新体制に移行したいという学校法人は、とても多いです。
全員の辞表を取りまとめるのがわかりやすいですが、人数が多い学校法人などでは、辞表の取りまとめも大変です。

そこで、現任の役員・評議員の任期を、令和7年定時評議員会終結時で満了するように変更する方法が選択肢に上ります。
ただ、この方法をとる場合に寄附行為にどう書けばいいのか、寄附行為作成例には条文の例がありません。
なければ仕方がない、自分で作るしかないですね。
ということで、次のような条文を寄附行為の附則に置くことが考えられます。

 4 この寄附行為の施行の際現に在任する役員又は評議員
  であって、令和7年度の定時評議員会終結時よりも後に
  任期が満了するものの任期については、その終期を令和
  7年度の定時評議員会の終結の時まで短縮する。

例えば、現在の任期が令和8年3月31日までの理事でも、この附則の定めによって、任期が令和7年定時評議員会終結時まで短縮され、その時点で任期満了退任となります。
ちょっと気になるのは、「寄附行為変更によって一方的に任期満了退任とさせられるのはおかしい!」「実質的に解任じゃないか!」と言って争いになる可能性です。

株式会社の取締役については、定款の変更によって任期を短縮した場合、短縮後の任期満了時に退任するという裁判例があります(東京地裁平成27年6月29日判決、名古屋地裁令和元年10月31日判決等)。
これらの裁判例では、短縮後の任期満了時にその取締役を再任しなかった場合、再任しないことについて正当な理由がないと判断されたら、(取締役に復帰させるのではなく)損害賠償責任が発生する可能性があるとされています。

個人的には、学校法人の役員・評議員についても同じ結論でいいんじゃないかなー、と思います。
ただ、株式会社の取締役に関する裁判例は、会社法339条2項を根拠としているのですが、この条文と同趣旨の条文が、私立学校法にはありません。
任期短縮の法的有効性について訴訟になると、裁判所がどんな判断をするか確実な見通しを立てにくいので、揉めることがないように、役員・評議員の皆様には丁寧に説明をして納得していただくことが大事です。

ちなみに、残り任期が短い人(令和7年3月31日までとか)、残り任期が長い人(令和9年3月31日までとか)、全員そろって令和7年定時評議員会終結時で退任にしたい場合、任期が短い人については延ばす、任期が長い人については縮めるという、両方を組み合わせることもできます。
この場合、寄附行為の附則に、任期伸長と任期短縮の条文を、両方置けばOKです。

例えば、こんな感じですね。

 3 この寄附行為の施行の際現に在任する役員又は評議員
  であって、令和7年度の定時評議員会の日よりも前に
  任期が満了するものの任期については、その終期を令和
  7年度の定時評議員会の終結の時まで伸長する。
 4 この寄附行為の施行の際現に在任する役員又は評議員
  であって、令和7年度の定時評議員会終結時よりも後に
  任期が満了するものの任期については、その終期を令和
  7年度の定時評議員会の終結の時まで短縮する。


役員・評議員の任期の取扱いは、今のメンバーの顔触れや残任期を見ながら決めなければならないので、学校法人ごとに留意点が異なります。
当事務所でご相談をお受けするときも、頭を悩ませることが多い論点の一つです。


執筆:弁護士 小國隆輔


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