学校法務の研究室

弁護士法人小國法律事務所の公式ブログです。
労働法、私立学校法、学校教育法の話題をつぶやいています。

私立学校法

(宣伝)改正私学法オンデマンド研修のお知らせ

改正私学法について、役員・評議員向けの研修をしてほしい!というご要望をいただくことがございます。

私学団体からのご依頼で研修の講師役を務めることが多いのですが、学内研修のご要望は、顧問契約等がない限り、お断わりするか、当事務所の別の弁護士が担当させていただくことが多くなってきています。
学内研修のご要望が非常に多く、このお仕事を全部自分で受けていると本業の時間が取れなくなってしまうので・・・

申し訳なく思っていたところ、一般社団法人教育人財開発機構様からオンデマンド研修のお話をいただきました。
理事・監事・評議員向けに、「ここだけは知っておいてほしい!」という改正私学法の要点をお話しした内容です。

もしご興味があれば、リンク先をご覧いただければと思います。
【理事・(外部)評議員・監事必修】改正私学法で変わる“責任”と“内部統制”を徹底解説

本日は、宣伝だけの記事でした。
次の記事から、また法律の話題に戻ります。たぶん。


執筆:弁護士 小國隆輔

理事会の報告を省略したい

理事会の決議を実質的に省略する方法は二つ前の記事で解説したので、本日は、理事会の報告を省略する方法です。

理事会へ報告しないといけない事項はたくさんあると思います。
私学法の条文で目立つのは、利益相反取引や競業取引をした後の理事会への報告です(私学法40条、一般法人法92条2項)。
この他にも、実務上、学生生徒募集の状況、管理職の人事、予算の進捗など、理事会ではいろいろな報告がされています。

で、報告のためだけに、遠方からたくさん理事に来てもらうのはちょっとなー、ということもありますよね。
例えば、資料を見たら十分理解できて、口頭の説明はいらないこともありますよね。

私学法改正で、このような場合には、理事会への報告をオフィシャルに省略することができるようになりました。

現在の私学法では、理事、監事又は会計監査人が、理事会に報告すべき事項を全理事と全監事に通知したときは、理事会への報告を省略できる旨が定められています。(私学法44条1項、一般法人法98条1項)
これ、わりと使い勝手の良いルールではないかな、と思います。

とても大事な注意点として、理事から理事会への定期報告(大臣所轄学校法人等では3か月以内ごと、それ以外の法人では年2回以上)を省略することはできません。
これを省略してしまうと、理事会が理事の職務を監督する機会が失われてしまうということですね。

なお、私学法44条1項、一般法人法98条1項に基づいて報告を省略したときは、その旨の理事会議事録を作成することとされています。


執筆:弁護士 小國隆輔


<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

意思表示書面の注意点

本日は、理事会に出席できない理事が提出する意思表示書面の注意点を、Q&Aの形でまとめてみます。

Q1 そもそも、意思表示書面ってどんな制度?
A1 理事会に出席できない理事が、議案に対する賛否を記載した書面を提出することで、理事会の議決に加わることができるという制度です。

Q2 私学法ではどう定められているの?
A2 私学法42条4項で、寄附行為で定めるところにより、理事が書面等で議決に加わることができるようにすることができる、と定めてられています。
つまり、寄附行為に定めていなければ、意思表示書面を利用することはできません。
また、紙媒体の書面を提出しなければならないのか、メール等でもいいのかも、寄附行為で決めることとされています。

Q3 議決権の行使を、他の理事に委任することもできる?
A3 できません。議案に対して自分の意見を明らかにすることは理事の最も基本的な職務であることと、特定の理事が2票以上持つことは許容されないためです。
私学法改正前は、委任状方式も可能だという解釈の余地もありましたが、私学法42条4項が許容するのは書面等で「議決に加わること」だけなので、他の理事に議決権の行使を委任することはできません。

Q4 議案に修正があった場合、意思表示書面を提出した理事の取扱いはどうなるの?
A4 誤字の修正等の軽微な修正であれば、予定通り出席扱いで構いません。軽微でない修正の場合は、採決にかけられる議案(修正後の議案)に対する賛否が表明されていないので、その理事は欠席扱いです。

Q5 1号議案は賛成、2号議案は反対、3号議案は記載なし、という書面が提出されたら、この理事は出席と欠席どちらになるの?
A5 1号議案と2号議案は出席、3号議案は欠席です。2号議案の採決が終わった時点で退出した場合と同じと考えれば、イメージしやすいと思います。


他にも何かありますかね・・・
気づいたらこっそり加筆するかもしれません。

執筆:弁護士 小國隆輔


<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

理事会の決議を省略したい

昨日の記事で予告したとおり、理事会の開催を省略する方法を考えてみたいと思います。

本日は、理事会の決議を省略する方法を考えてみます。
理事会の招集通知や議事録で、審議事項とか決議事項と書かれている案件ですね。

と言いつつ、理事会の決議事項について、理事会の開催を本当に省略することは、できません。
この点は、昨日の記事で書いたとおりです。

ただ、省略に近いことはできなくもなく、それなりに工夫することができます。

理事会の開催を省略したくなるのは、緊急の案件が発生して理事の出席確保が難しいとか、法令・寄附行為の定めによって理事会決議が必要だけど、その1件のためだけに理事会を招集するのは大変だとか、そんな場面です。

ということは、こういう場面を乗り切れるのであれば、「理事会の開催の省略」にこだわる必要はないわけです。

当事務所でよくお勧めしているのは、①オンライン出席の活用と、②意思表示書面の活用です。

①のオンライン出席は、コロナ禍をきっかけによく利用されるようになりました。
zoomとかteamsとかで出席した場合、相互に議論できる通信環境であれば、現実の出席と同様に出席者としてカウントすることができます。

特に学外の理事だと、会議の時間帯はあいていても遠方からの移動時間がとれないこともあります。
オンライン会議を利用すれば、このような場合にも出席していただけます。

②の意思表示書面は、私学法改正前から利用されていた制度です。
現在の私学法では、42条4項に根拠規定があり、寄附行為に書面出席が可能である旨を定めることで利用することができます。

◇私学法42条4項(抜粋)
4 学校法人は、寄附行為をもつて定めるところにより、理事が書面又は[中略]情報通信の技術を利用する方法[中略]により理事会の議決に加わることができるものとすることができる。

意思表示書面を提出した理事も、議案に対する賛否が示されていれば、出席者にカウントすることができます。
極端に言えば、理事長=議長だけが会議室に座っていて、他の理事は全員意思表示書面の提出で済ませても、理事会決議は成立します。
(認可申請のときなどに所轄庁から何か言われるかもしれないですが…。)


ということで、オンライン出席と意思表示書面を活用することで、実質的に、理事会の開催省略に近い進め方が可能です。

次回以降の記事では、報告事項を省略する法定の手続と、意思表示書面を利用する際の注意点などを解説したいと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔


<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

理事会の開催を省略したい

大人のお盆休みが終わり、子どもたちの夏休みも終わりそうですが、相変わらずとても暑いですね。
あちこちの植え込みや花壇の乾き具合を見ていると、もう少しお盆休みが長くてもいいんじゃないかと思います。

さて、私学法改正と関係があったりなかったりする話題ですが、理事会の開催を省略する方法について考えてみたいと思います。

どこの学校法人でもそうですが、理事会で扱う案件は、審議事項(決議によって意思決定するもの)と報告事項(決議はしないけど情報共有しておくもの)に大別することができます。

緊急に決めなければならない案件が出てきた場合や、わざわざ役員が集まるほどではない案件が出てきた場合に、メールで配信して了承してもらったり、持ち回り決議をしたりすることで、理事会の開催を省略したいというご相談をよくお受けします。

某国の内閣なんかは、「持ち回り閣議」とやらで意思決定することがあるので、同じような手続きをとりたくなりますよね。
ただ、理事会は理事が集まって議論することに意味があるので、メール回議や持ち回り決議によって理事会の開催を省略することはできません。
この点は各種の法人に共通のルールで、学校法人でも株式会社でも、持ち回り決議による理事会決議や取締役会決議は無効だと判断した裁判例が公表されています。

この辺の話は、実務なんちゃらという某書籍のp190とp206あたりで解説しています。

次の記事から2~3回かけて、理事会の開催を省略する方法がないか、考えてみたいと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔


<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

ガバナンスと内部統制システムの違い

今日もとても暑いですね。
北海道の酷暑が連日ニュースになっていますが、昨日まで、国内最高気温は京都府内の某市が3連覇しているようです。
そんなわけで、今日も内部統制システムについて考えてみましょう。
(滞っていた更新をまとめてやっているわけではない)

ものすごくざっくりまとめると、内部統制システムは、適法かつ効率的に学校法人を運営するための仕組みです。

でも、適法かつ効率的に学校法人を運営するために必要な点では、ガバナンスも共通のような気がします。

そこで、ガバナンスと内部統制システムの違いがよくわからなくなるわけですね。

内部統制システムの定義は、7月8日の記事に掲載したとおりです。

わかったようなわからんような定義ですが、
「基本的に、その目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセス」
のことでしたね。
ガバナンスとの違いを考えるときに大事なのは、「組織内の全ての者」を対象にしていることです。
役員だけでなく、全教職員が対象ということですね。

続いて、ガバナンスの定義を見てみましょう。
令和3年3月19日の有識者会議の報告書から引用します。

ガバナンスとは、
「誠実かつ高潔で優れたリーダーを選任し、適正かつ効果的に組織目的が達成されるよう活動を監督・管理し、不適切な場合にはリーダーを解任することができる、内部機関の役割や相互関係の総合的な枠組み」
のことをいいます。
  出典:R3.3.19 学校法人のガバナンスに関する有識者会議「学校法人のガバナンスの発揮に向けた今後の取組の基本的な方向性について」

内部統制システムとの違いを考えるときに大事なのは、「リーダーを」という記載です。
学校法人で言えば、理事、監事、評議員、会計監査人あたりが該当します。

つまり、ガバナンスは、リーダーの選任・解任・監督管理を通じて、適法かつ効率的に学校法人を運営しようというものです。
これに対して、内部統制システムは、リーダーだけでなく全構成員(≒全教職員)が適法かつ効率的に仕事をするための仕組みです。

まとめると、ガバナンスの枠組みで選任された理事=理事会が、内部統制システムを整備して、全構成員が内部統制システムに従って仕事をする、ということです。
ちなみに監事は、内部統制システムがきちんと整備されているか、内部統制システムに従って仕事をしているか、などを監査します。

図にすると、こんな感じです。
 ガバナンスと内部統制システム.pdf

私の脳内に格納されている理解を吐き出した図なので、必ずしも正確性が確保された図でないことはお含みくださいませ。


執筆:弁護士 小國隆輔


<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

内部統制システムとは何ぞや(続き)

毎日とても暑いですね。
北海道で40℃予報とか、いったいこの国はどうなってしまうのでしょうか。
そんなわけで、このブログの更新も滞りがちです。

さて、先日内部統制システムについて少し書きましたが、やっぱりイメージがわきにくいですよね。
そんなときは、ダメな例を並べてみるといいかもしれません。

学校法人では、こんな事例をよく見かけます。

①効率的に業務を遂行できる仕組み ができていない例
 ・日常の意思決定をするために、ものすごくたくさんの決裁が必要
  →極端な例として、ボールペン1本買うために稟議書を作ってるとか。
 ・イレギュラーな案件に対応する部署が決まっていない
  →行政から文書が届いたときに、担当部署がわからなくて放置してるとか。

②計算書類を正確に作ることができる仕組み ができていない例
 ・学級費、給食費、部活費、実習費などを現場の教員が集金・支出している
  →学校ではとても多い事例ですが、簿外債務や使途不明金の温床です。

③違法行為が起きないようにする仕組み ができていない例
 ・監事との連絡窓口になる職員が誰なのか、誰も知らない
  →実質的に監事監査ができないので、抑止力にならないですね。
 ・昔、ハラスメント防止規程を作った気がするが、今どこにあるかわからない
  →これもときどきあります。規程を作っても使わないと無意味です。

④法人財産が無駄遣いされないようにする仕組み ができていない例
 ・ずっと前から理事の知り合いの業者に発注している
  →金額や内容にもよりますが、相見積もりや入札を検討しましょう。
 ・株式等で資産運用しているが、モニタリングをする組織がない
  →投機取引で多額の損失を出した理事に、損害賠償を命じた裁判例があります。


こんなところですかね…。
他にもいろいろありそうですが、こういうのを一つ一つ潰していくことで、内部統制システムが少しずつブラッシュアップされていくのだろうと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔


<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

内部統制システムとは何ぞや

このブログでも何度か書いたことがありますが、内部統制システムに関するご相談がぼちぼち続いています。

とりあえず、文科省が公表している資料はこちら。↓
 「内部統制システムの整備について」

この資料によると、内部統制システムとは、

 「基本的に、その目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、
  業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセス」

のことをいうそうです。

難しい日本語ですね。
「その目的」とか「合理的な保証」とか、何を言っているのかよくわからないですね。

文科省の資料を参考に私なりに意訳すると、たぶんこんなことを言っています。

①効率的に業務を遂行できる仕組み、②計算書類を正確に作ることができる仕組み、 ③違法行為が起きないようにする仕組み、④法人財産が無駄遣いされないようにする仕組み、この4つの仕組みができていて、全教職員がこの4つの仕組みに従って仕事をしていること。

で、①をさらに意訳すると、「誰が何をやるか決まっていて、漏れや重複がない」と言い換えてもよさそうです。

改正法のもとでは、大臣所轄学校法人等では、この4つの仕組みを、理事会決議で整備しなければならないとされています。

おそらく、今年の3月末までに理事会決議を終えているはずですが、こういう仕組みは動かしながらブラッシュアップしていくものなので、整備してほったらかしというパターンに陥らないようにしたいですね。


執筆:弁護士 小國隆輔

<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

(補足)意思表示書面でちょっとだけ出席

昨日の記事のように、第1号議案賛成、第2号議案反対、第3号議案空欄、という意思表示書面を提出した理事(Aさん)がいた場合、議事録の出席者の欄には、どう書けばいいのでしょうか。

私学法施行規則15条3項6号は、理事会に出席した理事の氏名を書くことを求めるだけで、書き方は特に決まっていません。
したがって、理事会の議事録には、Aさんの取扱いが分かれば、どのような記載でもOKです。

例えば、次のような記載でよいと思います。

  出席理事 B、C、D、E
  意思表示書面による出席理事 A(第1号議案、第2号議案のみ)

なお、欠席理事の氏名も書くのが多くの学校法人の実務ですが、必須の記載ではありません。
出席と書いてなければ欠席に決まってますしね。

もし欠席理事の氏名も記載したいということであれば、つぎのような記載が考えられます。

  出席理事 B、C、D、E
  意思表示書面による出席理事 A(第1号議案、第2号議案のみ)
  欠席理事 F、G、H、I、A(第1号議案、第2号議案を除く)

なんというか、もっとスマートな記載の仕方もありそうですが・・。
まあ分かればなんでもいいのです。


執筆:弁護士 小國隆輔

<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

意思表示書面でちょっとだけ出席

毎日暑いですね。。。
7月に入り、決算理事会やら定時評議員会やら役員の改正やらが一段落した頃合かと思います。

さて、本日は、理事会や評議員会に意思表示書面で出席した人の取扱いです。

対面で出席した人、オンライン会議で出席した人、事前に意思表示書面(議案に対する賛否の意思を記載した書面)を提出した人は、いずれも出席扱いです。
出席扱いというのは、定足数の判断においては出席者にカウントし、議案の可決・否決の判断においては賛成票又は反対票にカウントするということですね。

で、ときどき困るのが、意思表示書面に空欄がある場合です。

例えば、第1号議案には賛成、第2号議案には反対と書いているのに、第3号議案には賛否を書いていない場合です。

次のような理事会で考えてみましょう。
 ・理事定数は9名。
 ・ある理事会の日、4名が出席、4名が欠席、1名が意思表示書面を提出した。
 ・意思表示書面には、第1号議案は賛成、第2号議案は反対と記載されていたが、
  第3号議案に対する賛否は記載されていなかった。
 ※意思表示書面を提出した理事を、仮にAさんと呼ぶことにします。

前提として、出席・欠席は、議案ごとに判断します。

第1号議案と第2号議案については、Aさんは議案に対する賛否の意思を示しているので、出席者にカウントします。
理事定数9名、出席者が5名(対面出席4名+意思表示書面1名=5名)なので、過半数の出席を確保しており、定足数を満たします。

で、第1号議案と第2号議案のいずれも、対面出席者の2名が賛成、2名が反対したとしましょう。
第1号議案は、対面出席2名+Aさんで、3名が賛成です。出席者5名の過半数の賛成を得たので、可決ですね。
これに対し、第2号議案は、対面出席2名のみ賛成です。出席者5名の過半数の賛成がないので、否決ですね。

では、第3号議案はどうでしょうか。
理事定数9名なので、理事会の定足数は5名です。
Aさんは第3号議案に対して賛否の意思を表示していないので、出席者にカウントできません。
比ゆ的に言えば、第3号議案の審議に入る直前に退席して帰宅してしまったようなものです。
出席4名なので、定足数未達となり、第3号議案を審議することはできないこととなります。

ということで、この理事会の結果は、次のとおりです。
 第1号議案:可決
 第2号議案:否決
 第3号議案:審議できず

長々と書き連ねましたが、実際には、第3号議案への賛否を記載し忘れただけの可能性が高いので、事務局からAさんに連絡して、改めて意思表示書面を提出してもらうのがいいのでしょう。


執筆:弁護士 小國隆輔

<以下宣伝>

★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
事務所紹介
名称    :弁護士法人小國法律事務所
事務所HP:http://www.oguni-law.jp/
大阪弁護士会所属
記事検索