学校法務の研究室

弁護士法人小國法律事務所の公式ブログです。
労働法、私立学校法、学校教育法の話題をつぶやいています。

労務管理

テレワークの拡充【改正育児介護休業法】

あんまり需要がないかもしれないなーと思いつつ、本日も育児介護休業法の改正のおさらいです。

今回の改正ではテレワークがいくつか出てきます。
関係する育児介護休業法の条文を貼り付けてみましょう。
まずは、令和7年4月1日施行分です。

(所定労働時間の短縮措置等)
第二十三条 事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるものを除く。)に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつその子を養育することを容易にするための措置(以下この条及び第二十四条第一項第三号において「育児のための所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならない。ただし、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうち育児のための所定労働時間の短縮措置を講じないものとして定められた労働者に該当する労働者については、この限りでない。
一 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者
二 前号に掲げるもののほか、育児のための所定労働時間の短縮措置を講じないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの
三 前二号に掲げるもののほか、業務の性質又は業務の実施体制に照らして、育児のための所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
2 事業主は、その雇用する労働者のうち、前項ただし書の規定により同項第三号に掲げる労働者であってその三歳に満たない子を養育するものについて育児のための所定労働時間の短縮措置を講じないこととするときは、当該労働者に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づく育児休業に関する制度に準ずる措置又は次の各号のいずれかに掲げる措置を講じなければならない。
一 労働者の申出に基づき、当該労働者が就業しつつその子を養育することを容易にするため、住居その他これに準ずるものとして労働契約又は労働協約、就業規則その他これらに準ずるもので定める場所における勤務(第二十四条第四項において「在宅勤務等」という。)をさせる措置(同条第二項において「在宅勤務等の措置」という。)
二 前号に掲げるもののほか、労働基準法第三十二条の三第一項の規定により労働させることその他の労働者の申出に基づく厚生労働省令で定める当該労働者が就業しつつその子を養育することを容易にするための措置(第二十四条第一項において「始業時刻変更等の措置」という。)
3~4 略


相変わらずの悪文ですね。
要するに、こういうことらしいです。

 ◇3歳未満の子どもを育てている労働者には、希望に応じて時短勤務を
  させてあげなさい。
 ◇時短勤務が無理なら、育休に準じた措置、テレワーク、時差出勤の
  どれかを認めてあげなさい。

これだけのことが、なぜこんなに長文の悪文になるのか…。
この国では不思議なことが多いです。

ちなみに、「育児のためのテレワーク」を厚労省が日本語に翻訳すると、「労働者が就業しつつその子を養育することを容易にするため、住居その他これに準ずるものとして労働契約又は労働協約、就業規則その他これらに準ずるもので定める場所における勤務」になるそうです。
むつかしいこと言わずに、「育児のためのテレワーク」って書いたらいいのに。

あと、令和7年4月1日施行分の改正では、3歳未満のお子さんを育てている労働者と、家族の介護をしている労働者について、テレワークを実施することが努力義務とされています。(法24条第2項~3項)


次に、令和7年10月1日施行分の改正にも、在宅勤務に関する条文があります。

(三歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置)
第二十三条の三 事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育するものに関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づく次に掲げる措置のうち二以上の措置を講じなければならない。
一 始業時刻変更等の措置であって厚生労働省令で定めるもの
二 在宅勤務等の措置
三 育児のための所定労働時間の短縮措置
四 労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための休暇(子の看護等休暇、介護休暇及び労働基準法第三十九条の規定による年次有給休暇として与えられるものを除く。)を与えるための措置
五 前各号に掲げるもののほか、労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置として厚生労働省令で定めるもの
2 前項の規定により事業主が同項第四号に掲げる措置を講じたときは、同号に規定する休暇は、一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるもの以外の者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働省令で定める一日未満の単位で取得することができる。
3 第一項の規定(第三号に掲げる労働者にあっては、同項第四号に係る部分に限る。以下この項において同じ。)は、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうち第一項の規定による措置を講じないものとして定められた労働者に該当する労働者については、これを適用しない。
一 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者
二 前号に掲げるもののほか、第一項に掲げる措置を講じないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの
三 業務の性質又は業務の実施体制に照らして、前項の厚生労働省令で定める一日未満の単位で第一項第四号に規定する休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者(前項の規定により同項の厚生労働省令で定める一日未満の単位で取得しようとする者に限る。)
4 事業主は、第一項の規定による措置を講じようとするときは、あらかじめ、当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
5 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、三歳に満たない子を養育する労働者に対して、当該労働者が第一項の規定により当該事業主が講じた措置(以下この項及び第七項において「対象措置」という。)のいずれを選択するか判断するために適切なものとして厚生労働省令で定める期間内に、対象措置その他の厚生労働省令で定める事項を知らせるとともに、対象措置に係る申出に係る当該労働者の意向を確認するための面談その他の厚生労働省令で定める措置を講じなければならない。
6 第二十一条第二項及び第三項の規定は、前項の厚生労働省令で定める措置を講ずる場合について準用する。この場合において、同条第二項中「同項の規定による申出」とあるのは「第二十三条の三第五項に規定する対象措置」と、「当該申出をした」とあるのは「当該対象措置の対象となる」と、「当該子の出生の日以後に発生し」とあるのは「発生し」と読み替えるものとする。
7 事業主は、労働者が対象措置に係る申出をし、若しくは第一項の規定により当該労働者に措置が講じられたこと又は前項において準用する第二十一条第二項の規定により確認された意向の内容を理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。


すごいですね。
果たして、国民に読んでもらう気があるのかないのか…。
ざっくり言うと、こういうことが定められています。

◇対象者:
  3歳~小学校入学前の子どもを養育する者
◇内容:
  過半数代表者の意見を聴いて、次の中から2つ以上を実施しなければ
  ならない
   ・始業時刻等の変更
   ・テレワーク(月10日、1時間単位で利用可)
   ・短時間勤務制度(原則として1日6時間勤務に短縮するもの)
   ・新たな休暇の付与(年10日、1時間単位で利用可)
   ・保育施設の設置運営


やたらと条文を貼り付けて、長くなってしまいました…
厚労省の規程のひな形は、また機会があれば貼り付けます。



執筆:弁護士 小國隆輔

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著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



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小國隆輔
日本加除出版
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実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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所定外労働の免除【改正育児介護休業法】

昨日に続いて、育児介護休業法の改正のおさらいです。

本日は、所定外労働の免除です。
とりあえず、育児介護休業法の条文を貼り付けてみましょう。

第十六条の八 事業主は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者であって、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうちこの項本文の規定による請求をできないものとして定められた労働者に該当しない労働者が当該子を養育するために請求した場合においては、所定労働時間を超えて労働させてはならない。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りでない。
一 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者
二 前号に掲げるもののほか、当該請求をできないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの
2 前項の規定による請求は、厚生労働省令で定めるところにより、その期間中は所定労働時間を超えて労働させてはならないこととなる一の期間(一月以上一年以内の期間に限る。第四項において「制限期間」という。)について、その初日(以下この条において「制限開始予定日」という。)及び末日(第四項において「制限終了予定日」という。)とする日を明らかにして、制限開始予定日の一月前までにしなければならない。この場合において、この項前段に規定する制限期間については、第十七条第二項前段(第十八条第一項において準用する場合を含む。)に規定する制限期間と重複しないようにしなければならない。
3 第一項の規定による請求がされた後制限開始予定日とされた日の前日までに、子の死亡その他の労働者が当該請求に係る子の養育をしないこととなった事由として厚生労働省令で定める事由が生じたときは、当該請求は、されなかったものとみなす。この場合において、労働者は、その事業主に対して、当該事由が生じた旨を遅滞なく通知しなければならない。
4 次の各号に掲げるいずれかの事情が生じた場合には、制限期間は、当該事情が生じた日(第三号に掲げる事情が生じた場合にあっては、その前日)に終了する。
一 制限終了予定日とされた日の前日までに、子の死亡その他の労働者が第一項の規定による請求に係る子を養育しないこととなった事由として厚生労働省令で定める事由が生じたこと。
二 制限終了予定日とされた日の前日までに、第一項の規定による請求に係る子が小学校就学の始期に達したこと。
三 制限終了予定日とされた日までに、第一項の規定による請求をした労働者について、労働基準法第六十五条第一項若しくは第二項の規定により休業する期間、育児休業期間、出生時育児休業期間又は介護休業期間が始まったこと。
5 第三項後段の規定は、前項第一号の厚生労働省令で定める事由が生じた場合について準用する。


うんうん、今日も何を書いているかよくわからないですね。
この法律の条文、何とかならないものか。
ざっくり言うと、所定外労働の免除とは、次のような制度です。

◇対象者:
  小学校入学前の子を養育する者
  ※改正前は3歳になるまでの子
◇内容:
  対象となる教職員から請求されたら、その教職員には、所定時間外の
  労働(要するに残業)をさせることができなくなる。
◇施行日
  令和7年4月1日

で、厚生労働省から、学内規程の作成例も公表されています。
該当する条文を貼り付けておきましょう

第6条(育児・介護のための所定外労働の制限)
1 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日雇従業員を除く)が当該子を養育するため、又は要介護状態にある家族を介護する従業員(日雇従業員を除く)が当該家族を介護するために請求した場合には、事業の正常な運営に支障がある場合を除き、所定労働時間を超えて労働をさせることはない。
2 請求をしようとする者は、1回につき、1か月以上1年以内の期間について、制限を開始しようとする日及び制限を終了しようとする日を明らかにして、原則として、制限開始予定日の1か月前までに、育児・介護のための所定外労働制限請求書を人事担当者に提出するものとする。


なお、過半数組合又は過半数代表者と労使協定を締結することによって、入社1年未満の者と、週所定労働日数2日以下の者を対象外にすることができます。
できますが、ケチなこと言わないで、残業の免除ぐらい全員に認めてあげたらいいんじゃないかな、と思います。


執筆:弁護士 小國隆輔

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小國隆輔
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2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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子の看護等休暇【改正育児介護休業法】

育児介護休業法がまたしても改正され、4月1日から段階的に施行されていきます。
学内規程の改正やら何やらが必要ということで、ご相談が増えてきました。

ということで、改正私学法の話題をちょっとお休みにして、育児介護休業法の改正を何回かに分けておさらいしようと思います。

まずは、「子の看護等休暇」です。
とりあえず、育児介護休業法の条文を貼り付けてみましょう。

(子の看護等休暇の申出)
第十六条の二 九歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある子(以下この項において「小学校第三学年修了前の子」という。)を養育する労働者は、その事業主に申し出ることにより、一の年度において五労働日(その養育する小学校第三学年修了前の子が二人以上の場合にあっては、十労働日)を限度として、負傷し、若しくは疾病にかかった当該小学校第三学年修了前の子の世話、疾病の予防を図るために必要なものとして厚生労働省令で定める当該小学校第三学年修了前の子の世話若しくは学校保健安全法(昭和三十三年法律第五十六号)第二十条の規定による学校の休業その他これに準ずるものとして厚生労働省令で定める事由に伴う当該小学校第三学年修了前の子の世話を行うため、又は当該小学校第三学年修了前の子の教育若しくは保育に係る行事のうち厚生労働省令で定めるものへの参加をするための休暇(以下「子の看護等休暇」という。)を取得することができる。
2 子の看護等休暇は、一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるもの以外の者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働省令で定める一日未満の単位で取得することができる。
3 第一項の規定による申出は、厚生労働省令で定めるところにより、子の看護等休暇を取得する日(前項の厚生労働省令で定める一日未満の単位で取得するときは子の看護等休暇の開始及び終了の日時)を明らかにして、しなければならない。
4 第一項の年度は、事業主が別段の定めをする場合を除き、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わるものとする。


うん、何を書いているかよくわからないですね。
育児介護休業法の条文は、稀にみる悪文なので、基本的に読んでも理解できません。
ざっくり言うと、次のような制度です。

◇対象者:
  小学校3年生修了までの子を養育する者
  ※改正前は小学校就学前の子
◇内容:
  次の理由で、年次有給休暇とは別に、休暇を取得可能
   ・病気、けが
   ・予防接種、健康診断
   ・感染症に伴う学級閉鎖 ←NEW
   ・入園式、卒園式、入学式 ←NEW
  取得できる日数は、1年あたり5日(対象となる子が複数の場合は10日)
  1時間単位で取得可能(遅刻、早退のみ可能で、中抜けは不可)
◇その他の改正点:
  勤続6か月未満の者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止
◇施行日
  令和7年4月1日

で、厚生労働省から、学内規程の作成例も公表されています。
該当する条文を貼り付けておきましょう

第4条(子の看護等休暇)
1 小学校第3学年修了までの子を養育する従業員(日雇従業員を除く)は、次に定める当該子の世話等のために、就業規則第○条に規定する年次有給休暇とは別に、当該子が1人の場合は1年間につき5日、2人以上の場合は1年間につき10日を限度として、子の看護等休暇を取得することができる。この場合の1年間とは、4月1日から翌年3月31日までの期間とする。
 ⑴ 負傷し、又は疾病にかかった子の世話
 ⑵ 当該子に予防接種や健康診断を受けさせること
 ⑶ 感染症に伴う学級閉鎖等になった子の世話
 ⑷ 当該子の入園(入学)式、卒園式への参加
2 子の看護等休暇は、時間単位で始業時刻から連続又は終業時刻まで連続して取得することができる。


育児介護休業法はこまごまといろいろな制度が定められているのですが、日常的に使う制度は限られています。
実務的に必要な最低限の対応は、使うかどうかわからない制度を全て勉強して覚えることではなく、改正法に則した内容に学内規程を改正しておくことです。
子の看護等休暇についても、厚労省の作成例を参考に学内規程を改正しておき、対応が必要になったときに、改めて条文を読み込むことでもよいと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔

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実務 私立学校法
小國隆輔
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2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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労働条件明示義務(異動の範囲)

久しぶりに、労働法の話題です。

ご記憶の方も多いと思いますが、令和6年4月1日に労働基準法施行規則が改正され、雇入時に書面等で明示すべき労働条件がいくつか追加されました。

おそらく全ての労働者の影響するのが、「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」です。(労基則5条1項1号の3)

従前は、労働条件通知書や雇用契約書に、採用時の就業場所と業務だけ記載していればよくて、その後の異動の有無・範囲は書いていなくても構いませんでした。

労基法施行規則の改正により、令和6年4月1日以降に作成する書面には、「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」も記載しなければならなくなったので、多くの場合、令和7年度採用の方から、労働条件通知書等の記載事項が増えているはずです。
増えていなかったら、最新の法令に追い付いていないことになるので、見直しが必要です。

で、この「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」の書き方、どうします?
実は、ほとんどの私学では、基本的に2通りしかないと思っています。

A:正社員採用(専任教職員の場合)
『就業の場所の変更の範囲 限定なし』
『従事すべき業務の変更の範囲 限定なし』

B:非正規採用(非常勤講師とか)
『就業の場所の変更の範囲 変更なし』
『従事すべき業務の変更の範囲 変更なし』

要するに、定年まで勤務する(はずの)正社員採用であれば、辞令一本で学内のどこへでも異動させることができて、どんな業務でも担当させられるようにしたいので、「限定なし」と書くことになります。
これに対して、半年や1年間などの有期雇用であれば、契約期間中の異動はないはずなので、「変更なし」と書けば足ります。
もし、有期雇用の契約期間中に変更が必要になれば、個別に同意を得れば変更できるので、「変更なし」と書いても、実務上の支障はほぼありません。


学校法人の顧問業務をやっていると、労務管理のご相談はすごく多いです。
労働条件通知書や雇用契約書のひな形を拝見すると、法改正にきちんと対応しているかどうか、すぐわかってしまいます。
最近であれば、「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」という記載があるかどうかを確認すれば、その学校法人の法改正への意識の高さが判断できるわけですね。


ということで、労働法令の改正は、常にフォローしておきましょう。


執筆:弁護士 小國隆輔

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定年後再雇用と同一労働・同一賃金(最高裁R5.7.20判決)

本日は、定年退職後再雇用者の労働条件と、同一労働・同一賃金のお話です。
7月20日に最高裁判決が出て、そこそこのサイズ感で報道されたやつですね。

まず、世間で “同一労働・同一賃金” と呼ばれている条文(パート有期法8条)の確認です。昔は、労働契約法20条に同じような条文がありました。

(不合理な待遇の禁止)
第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。


ややこしい条文ですが、ざっくり言うと、非正規雇用(有期雇用又は短時間勤務)の人の労働条件が、正社員と比べて、不合理なほど低くなっていてはいけない、というルールです。
詳しく話すと長くなるので、詳しい話はまたの機会に。


で、名古屋の自動車学校で “同一労働・同一賃金” 違反が争われたのが、7月20日の最高裁判決です。
ざっくりいうと、次のような事案です。
  ・正社員として定年まで勤めた従業員が、定年退職後、有期労働契約で
   再雇用されていた
  ・再雇用者の基本給がすごく低かった
  ・ “同一労働・同一賃金” のルールに違反して違法だとして、再雇用者が
   会社を訴えた

この事案の地裁・高裁判決は、原告側の主張を認めて、再雇用者の基本給が定年退職前の基本給の60%を下回ると、違法になるという判断をしました。
そこそこのサイズ感で報道され、著名な法学者が画期的な判決だと評したこともあり、実務にもそこそこのインパクトがありました。

ただ、地裁・高裁判決は、なぜ60%で線を引くのか根拠を示していないうえに、他の正社員の労働条件と比較するのではなく、定年前の自分の労働条件と比較するという論理的誤りを犯していました。
なんというか、あまり出来のよろしくない判決だったわけですね。

で、最高裁判決は、高裁判決を取り消して、審理を高裁へ差し戻しました。
最高裁判決のポイントは、次のとおりです。
  ・有期雇用労働者の基本給や賞与に関する労働条件が正社員と異なるものである
   場合、労働契約法20条が適用されうる。
  ・その相違が不合理かどうかは、基本給及び賞与の性質やこれを支給することと
   された目的を踏まえて、不合理かどうかを評価すべきである。
  ・高裁判決は、基本給と賞与の性質や支給目的をきちんと検討していないので、
   やり直し。

要するに、高裁判決は、考慮すべき事情を考慮せずにざっくり判断しているので、もっと丁寧に審理をやり直しなさい、ということのようです。

性質や支給目的を考慮すべきという点は、H30.6.1の最高裁判決が、契約社員への諸手当(住宅手当、皆勤手当、通勤手当など)の不支給が不合理かどうかを判断する際に用いた枠組みです。
今回の最高裁判決で、この枠組みを使う範囲が、基本給や賞与にも広がったことになります。

・・・ところで、基本給や賞与の性質、支給する目的って、なんでしょうね?
特に、基本給を支給する目的って言われても、そりゃあんた基本給も払わない会社には誰も就職しないでしょ、って思うんですが…。
審理を差し戻された名古屋高裁は、どんな判断をするんでしょうね。


執筆:弁護士 小國隆輔

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トランスジェンダーとトイレの問題(最高裁R5.7.11判決)

本日は、労務管理の話題です。

経済産業省に勤務するトランスジェンダーの職員のトイレ使用について、7月11日に最高裁の判決が言い渡されました。
とても大きく報道されたので、皆さんご存じの話題と思います。

正確に理解するのが難しい判決なので、当ブログでも少し解説をしておこうと思います。

まず、最高裁判決を読むときに知っておきたい基礎知識です。

最高裁判決には、「法理判決」と「事例判決」があるといわれています。

「法理判決」とは、その裁判の具体的事案だけでなく、類似の事案についても通用する、一般的なルール(規範)を示す内容の判決です。
この「規範」のことを、法律学の通たちは、ラテン語で "ratio decidendi"(レイシオ・デシデンダイ)と呼んだりします。かっこいいですね。

最近の労働法関係の最高裁判決で「法理判決」に当たるものとして、いわゆる同一労働・同一賃金に関する判決が挙げられます(ハマキョウレックス事件、最高裁H30.6.1判決)。
いくつかの規範を示した判決なのですが、例えば、次の判示は、労働契約法20条(現パート有期法8条)の適用を主張する事案で、一般的に通用するルールを示しています。

「同条は、有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり、文言上も、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。
 そうすると、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。」


この判決によって、有期契約労働者の労働条件が労働契約法20条(現パート有期法8条)に違反する場合でも正社員と同じ労働条件になることはないという点は、同条が問題となる全ての事案に共通するルールになったわけですね。

これに対して、「事例判決」は、その裁判で問題となっている事実関係を前提にした判断であり、類似の事案に共通するルール(規範)を示さない判決を指します。
全く同じ事案の訴訟があれば同じ判断になるけど、少しでも事実関係が異なればどんな判断になるかわかりませんよ、ということですね。

7月11日の最高裁判決は、「事例判決」に当たるものなので、この原告が提起したこの訴訟に限った判断であり、トランスジェンダーとトイレの問題についてのルールを示したものではありません。

今回の判決について、たくさんの方がいろいろなコメントをされていますが、判決の意味を正確に理解する前提として、「事例判決」であることを理解しておく必要があります。


前置きが長くなりましたが、7月11日判決の事実関係のポイントを見ていきましょう。

◇原告になったは、次のような方です。
 ・経済産業省の職員である
 ・生物学的な性別は男性で、戸籍上の性別も男性だが、性自認は女性で
  ある(M t F のトランスジェンダー)
 ・性同一性障害である旨の医師の診断を受けているが、健康上の理由から
  性別適合手術を受けていない。したがって、戸籍上の性別を変更することが
  できない
 ・女性ホルモンの投与を受けており、性衝動に基づく性暴力の可能性は低い
  旨の医師の診断を受けている
 ・私生活でも職場でも、女性として生活している

◇経産省及び人事院がとった措置は、次のとおりです。
 ・原告の了承を得て、同じ部署の職員に対し、原告の性同一性障害について
  説明会を開いた
 ・所属する部署から2階以上離れた女子トイレの使用を認める(同じ階と
  隣の階の女子トイレの使用はできない)
 ※最高裁判決では触れられていませんが、控訴審判決からは、女子更衣室・
  女子休憩室の使用は認められていたことがうかがわれます。

◇上記説明会で、担当職員には数名の女性職員が違和感を抱いているように
 見えたのですが、明確に異を唱える職員はいませんでした。

◇2階以上離れた女子トイレの使用を4年以上続けましたが、トラブルが生じた
 ことはありませんでした。

最高裁は、こういった事情を丁寧に確認した上で、2階以上離れた女子トイレの使用しか認めない措置は、「本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、上告人の不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平並びに上告人を含む職員の能率の発揮及び増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない。」として、違法と判断しました。


長々と書いてきましたが、今回の判決は、上記のような事情がある場合には、2階以上離れた女子トイレの使用しか認めない措置は違法だとしたものです。

例えば、国家公務員ではなく民間企業だったらどうなのか、労働者ではなく学生・生徒の事案だったらどうなのか、性別適合手術を受けられる健康状態だが自分の意思で受けていない場合はどうなのか、女性ホルモンの投与を受けていなかったらどうなのか、女子トイレの使用に明確に異を唱える女性職員がいたらどうなのか、F t M のトランスジェンダーだったらどうなのか、などの疑問については、全て謎です。

今回の最高裁判決は、トイレなどの公共施設の使用の在り方そのものについて判断した判決ではないので、少なくとも法理論的には、先例としての価値は大きくありません。
ただ、実務的には、どの組織でも起こり得る問題に対して、一石を投じる判決であることは間違いなさそうです。

判決の全文を裁判所のウェブサイトで読むことができるので、興味のある方はどうぞ。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/092191_hanrei.pdf


執筆:弁護士 小國隆輔

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給与支払いのキャッシュレス化

たまには労務管理の話題ということで、給与のキャッシュレス決済(デジタル払い)解禁のお話です。

これまでは、給与は現金払いが原則で、例外的に、本人同意があれば、預貯金口座への振込や、一定の要件を満たす証券総合口座で支払うことができるだけでした(労基法24条1項、労基法施行規則7条の2)

今年4月1日施行の労基法施行規則で、現金払い・振込払いに加えて、デジタル払いが選択肢に加わります。
ただし、デジタルの支払先は、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(なんちゃらペイの運営業者と思ってください)が運営するものに限られます。
厚生労働大臣への指定申請ができるのは4月1日以降なので、実際にデジタル払いができるようになるのは、もう少し先になるかもしれません。

給与のデジタル払いをするためには、次の要件をすべて満たす必要があります(改正労基法施行規則7条の2第3号)。
 ①厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者を利用すること。
 ②書面又は電磁的記録により、労働者本人の同意を得ること。
 ③同意を得る際に、次のイ~ヘを説明すること(ざっくり要約してます)。
  イ 給与振込先の “〇〇ペイ” の口座残高(チャージ額)の上限が、
    100万円以下になっていること
  ロ 運営業者の破綻時には、口座残高が保証される仕組みがあること
  ハ “〇〇ペイ” の不正利用等で出金されたときでも、労働者に帰責事由が
    なければ、損失額全額が補償されること
  ニ  “〇〇ペイ” を利用しなくなっても、少なくとも10年間は、利用や
    出金が可能であること
  ホ  “〇〇ペイ” への資金移動は、1円単位で行えること
  ヘ  ATMなどを使えば、“〇〇ペイ” から1円単位で引き出せること

あー、ややこしいですね。
厚生労働省から、上記の説明が適切にできるひな形が公表されているので、実務的にはこのひな形を使うのでしょう。

なお、デジタル払いについては、厚生労働省から通達が出ているので、利用するのであれば、目を通しておくとよいでしょう。

「労働基準法施行規則の一部を改正する省令の公布について」(局長通達1)(令和4年11月28日基発1128第3号)

「賃金の口座振込み等について」(局長通達2)(令和4年11月28日基発1128第4号)


しかし、給与のデジタル払い、どれぐらい利用されるんでしょうか?
私もなんちゃらペイはよく利用しますが、個人的には、給与は現金か銀行振込で受け取りたいです。

来日直後の外国人労働者など、銀行口座の開設が難しい人が利用することが想定されているのかもしれません。
が、一時的なものであれば現金払いでもいいでしょうし、私立学校では、デジタル払いはあまり利用されないような気がします。


執筆:弁護士 小國隆輔

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大学非常勤講師の労働者性を否定した事例(東京地判令4・3・28)

たまには弁護士っぽい記事を書こうということで、本日は裁判例の紹介をしてみようと思います。

ご紹介するのは、東京地裁令和4年3月28日判決(労働経済判例速報2498号3頁)で、大学の非常勤講師の労働者性を否定した、珍しい事例です。

一般に、大学の非常勤講師と大学設置者の契約は労働契約とされており、大学の非常勤講師は、労基法上も労契法上も労組法上も、労働者だと考えられています。
大学の非常勤講師については、雇止めなど多数の裁判例が公表されていますが、基本的に労基法・労契法・労組法等の労働法令が適用されることを前提にした内容です。

(一部の国立大学で、非常勤講師との契約を業務委託にして、労基法も労契法も適用しないという恐ろしい運用がされていると聞いたことがありますが…。最近は労働契約に切り替えるところが増えているようです。)


で、本日ご紹介する裁判例。
複数の講師が担当するオムニバス型の授業で、2コマ担当していた講師が、契約を更新してもらえなかったという事案です。
当該講師(原告)は、無期雇用と同視できる状況だった、又は契約更新への合理的期待があったなどとして、労契法19条の要件を充足する旨を主張し、労働契約上の地位を有することの確認を求めていました。

原告の主張に対し、裁判所は、原告は「労働者」じゃないから、そもそも労契法は適用されないと述べて、ばっさりと請求を棄却しました。

少し詳しく見ていきましょう。
労契法が適用される「労働者」は、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」を指します(労契法2条1項)。
具体的な判断は、事案ごとに諸事情を総合考慮するのですが、本件では次の事情が指摘されています。

 ①授業の具体的な方針や内容が、原告の裁量に委ねられていたこと
 ②外部講師の選定、スケジュール調整、試験の実施・評価、単位認定など
  講義運営の根幹は別の常勤教員が担当していたこと
 ③実際に担当する授業の時間帯と場所が指定されていただけで、出退勤の
  管理を受けていなかったこと
 ④年間収入が約57万円と少額で、社会保険料の徴収がなく、他の外部講師が
  担当する授業を欠席しても委嘱料の減額がされなかったこと
 ⑤職務専念義務が課されず兼業も自由だったこと

このうち、①と③は、大学に限らず、労働者性が争われる事例でよく指摘される事情です。
労働契約の本質は、使用者の指揮命令下で労務を提供することにあるので、業務内容の詳細な指示や時間的・場所的拘束の有無は、重要な考慮要素です。

これに対して、④と⑤は、あまり重要じゃない気がします。
報酬の多寡は労働者か否かの判断と関係ないですし、所定労働時間が短ければ社会保険に加入できないので、社会保険料の徴収がないのは当たり前です。
また、大学教員は兼業可能なことが多いですし、非常勤職で兼業を禁止することはまずないでしょう。

個人的に注目したいのは、②です。
試験の実施・評価、単位認定など、大学に特有の事情が含まれています。
文科省のご見解によると、成績評価や単位認定は、大学設置者と雇用関係にある教員が行わなければなりません。
業務委託の授業担当者に任せると、大学ではなく外部業者が単位を認定することになってしまうからです。
一応、ソースはこちらです↓
大学が当該大学以外の教育施設等と連携協力して授業を実施する際の留意点について

この裁判例でも、原告が単位認定を行ったりしていたら、労働者性を肯定する方向へ傾いたかもしれませんね。


ということで、弁護士っぽいお話はここまでです。

年末になって、友人や同業者から、どこそこへ旅行に行くという話をよく聞くようになりました。
お正月前後には強力な寒波が襲来するそうなので、鉄道の遅延・運休や航空便の欠航・引返しなどが起きないよう、切に切に心からお祈り申し上げる次第です。(他意はありません。本当に。)


執筆:弁護士 小國隆輔

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休職期間中の産休・育休

労務管理の実務に携わっていると、休職と休業の関係について悩むことがあります。

例えば、私傷病で休職中の労働者が、産前産後休業や育児休業を取得したいと申し出てきたら、どうなるでしょうか。
論理的にあり得る考え方は、おそらく3通りです。
 A:本人からの申出によって、産休・育休に切り替わる
 B:休職中に、産休・育休をとることはできない(労務管理的には休職のまま)
 C:休職と産休・育休が重複する

検討のスタートは、休職制度の基礎知識です。
休職制度は、法律に根拠のある制度ではなく、就業規則等で任意に創設される制度でしたよね。

労基法や育児・介護休業法は、労働条件の最低基準を定めるものなので、これらの法律よりも労働者に不利な労働条件を、就業規則等で定めることはできません。
産休・育休は労働者の権利として法律に定められているので、就業規則等に基づく休職を理由に産休・育休をとれなくなるという運用は、労基法や育児・介護休業法より不利な労働条件になってしまいます。

この論点を正面から扱った裁判例は把握していないのですが、こういう細かい議論になると、実務的に頼りになるのは厚生労働省の通達です。
かなり古いものですが、次のようなQ&Aで、厚労省の解釈が示されています。(昭和25年6月16日付け基収第1526号)

 Q [前略]法第65条第1項の休業の請求を行うためには就労していることが
   前提要件とはならない法意と解してよいか。
 A 見解のとおりである[以下略]

Qに記載されている「法第65条第1項の休業」は、産前産後休業のことです。
厚労省も、休職より産休が優先する、と考えているようです。
法律で定められた最低基準の休業という点では、育休も同じと考えるべきでしょう。

ということで、上記のA~Cのうち、Bは不正解ですね。
AとCは、どちらもあり得る運用ですが、Aの方がシンプルで良さそうです。

実務感覚だと、傷病休職によって既に労務提供を免除されているんだから、重ねて休業を認める必要はなかろう、と思いがちです。
うっかり法令違反の運用をしてしまわないよう、注意したいところです。


執筆:弁護士 小國隆輔

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給与2割支給と私学共済加入資格

本日も、傷病休職のお話です。

労働法の世界ではノーワーク・ノーペイが原則なので、傷病休職の期間中は、無給扱いで構いません。
が、私学の実務では、傷病休職期間中も、平常勤務時の2割を支給する取扱いが多く見られます。

これは、私学共済の加入資格との関係で、教職員に不利益がないよう配慮した取扱いです。
昔(平成27年10月より前)は、平常勤務時の2割以上の支給を受けていないと、私学共済の加入資格を失うというルールでした。
そうすると、国民年金・国民健康保険に自分で加入しなければならなかったので、それはさすがにひどかろうということで、2割支給にする私学が多かったということです。

ところが、平成27年10月に、年金一元化に伴って、この2割ルールが撤廃され、休職中に無給扱いでも、常用的な使用関係が認められるときは、加入資格を維持するという取扱いに変わりました。
月報私学2015年4月号の9ページで周知されています。

したがって、今では、無給の傷病休職だというだけで、私学共済から追い出されることはありません。
2割支給することで傷病手当金の受給額が減る(要するに学校法人の負担が増えるだけ)ことにもなるので、給与規程等を改正して2割支給を止める学校法人も増えてきました。

2割支給を無給に変更することは、労働条件の不利益変更に一応当たるのですが、その代わりに傷病手当金を満額受け取れるので、不利益変更が違法又は無効となることはないだろう、と思っています。


執筆:弁護士 小國隆輔

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事務所紹介
名称    :弁護士法人小國法律事務所
事務所HP:http://www.oguni-law.jp/
大阪弁護士会所属
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