学校法務の研究室

弁護士法人小國法律事務所の公式ブログです。
労働法、私立学校法、学校教育法の話題をつぶやいています。

私学経営

除籍後の学費支払い義務

除籍に関する余談的なお話です。

前回までの記事で、学費未納があれば最終的に除籍(=在学契約の解除)に至ることを整理してきました。
では、学費未納で除籍になった元学生に、その学費の支払いを請求することはできるのでしょうか。

例えば、次のような事例です。

 ①毎年春学期の学費の納付期限は、4月30日としている。
 ②4月30日までに学費を納付しなかった学生に、5月31日までに
  納付するよう記載した督促状を送付したが、やはり納付され
  なかった。
 ③除籍の通知を送付し、6月30日に学生に届いた。

除籍になったこの学生さんに、春学期分の学費を支払う法的義務はあるのでしょうか。
考え方は2通りあり得ます。

A:4月1日時点で在籍していれば春学期分の学費の支払義務が
  生じており、除籍になった後も支払義務は消えない。

B:6月30日に学生の身分を失ったのだから、6月30日までの分
  だけ支払義務がある。4~6月の3か月分だから、春学期分の
  学費の半額を支払えばよい。

春学期の学費を全額支払ったうえで途中で自主退学した場合とのバランスを考えると、A説の方が説得的な気がします。
ただ、学期途中で自主退学した学生に学費を返さなくていいのは、学則等で「既納の学費は返還しない」という不返還特約を定めているからです。
学費未納のまま学期途中で除籍や退学になった場合、不返還特約を適用することはできない(返す学費がない)ので、A説を採用するための法的根拠が若干怪しいです。

法的に確実なのはB説ですが、バランスを欠くことは否めないので、学則等で、学期途中で除籍・退学になった場合もその学期分の学費全額を支払う義務がある旨を定めておく方がよいかもしれません。


執筆:弁護士 小國隆輔


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★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
日本加除出版
2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]

除籍決定後・通知前の学費の納付

よく見たら、先月はこのブログを1回しか更新していなかったようですね、、、
事務所の移転などなどが一応落ち着いたので、ぼちぼち通常運転で更新していこうと思います。

さて、本日も除籍・退学に関する話題の続きです。

学費の未納があり、督促をしても納付されない場合には除籍(在学契約の解除)をすることになります。

前回の記事の最後で少し触れた事例では、除籍をすることは可能でしょうか。
問題となるのは、こんな事例です。

 ①納付期限までに学費が納付されない(法的には、債務不履行の発生)
 ②未納学費を納付してほしいという通知を送る(法的には、支払いの催告)
 ③催告で定めた期限を過ぎても学費が納入されないので、学内の手続で除籍を決定
 ④当該学生に除籍を通知する直前に、学費が納入された

この場合、この学生さんは除籍になるのでしょうか。
催告で定めた納付期限までに学費が支払われていないし、学内の手続(学長決裁とか)で除籍を決定済みだから、今さら学費を納付されても・・・というのが実務感覚かもしれません。

法的な答えは一応決まっていて、債務不履行があっても、契約が解除される前に債務の本旨に従った履行がされたときは、解除権は消滅する、と考えられています。
とても古い判例ですが、大審院大正6年7月10日判決がこのように述べていて、この判例が現在でも先例として生きています。

私学の実務で言い換えると、学費の未納があり、督促をしても支払わないから学内で除籍を決定しても、当該学生(未成年なら保護者でもよい)に除籍を通知する前に未納の学費が納付されたら、もう除籍にはできない、ということです。

学校側から見ても、学生を除籍にすると学費収入が減るわけですし、未納の学費を全額支払ってくれたのであれば、何が何でも除籍にしなくてもいいんじゃないかな、と思います。


執筆:弁護士 小國隆輔


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発刊年月:2024年5月刊



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実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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除籍とは何か

今月は本業がそこそこ忙しく、ブログを放置しておりました。
(いちおう、本業は弁護士です。)

さて、除籍・退学に関する話題の続きです。

学生・生徒が籍を失うパターンは、いくつかあります。
いちばん多いのは、卒業して籍を失うパターンです。
大学であれば、学則所定の年数在学して、学則所定の単位を取得して、卒業の認定を受けて、3月31日などの学則所定の日が経過することで、在学契約が終了します。

おそらく卒業の次ぐらいに多いと思われるのが、学費未納による除籍です。
ちょっと前の記事で書いたとおり、在学契約は有償双務契約であり、学生・生徒は授業料等の学費を支払う債務を負います。
学費が未納になると、法的には、在学契約上の債務不履行(履行遅滞)になるので、学校法人は契約を解除する権利を持ちます。

民法という法律で、債務不履行による解除のルールが定められています。
ざっくりまとめると、こんな感じです。(民法541条)

①学生・生徒が債務不履行(=学費未納)を起こす
②学校法人から、相当の期間を定めて履行を催告する
③その期間を経過しても債務が履行されなければ(=学費未納が続けば)、学校法人は、学生・生徒に通知をすることで在学契約を解除することができる

 ※この流れで在学契約を終了させることを、一般に「除籍」と呼んでいます。

学校法人の実務でも、所定の期限までに学費が納付されない場合、いきなり除籍にするのではなく、「何月何日までに未納の学費を納付してください」という通知を送って、それでも納付されないときに、文書で除籍を通知しています。
あまり意識されていないかもしれないですが、契約解除に関する民法のルールにきちんと従っているということですね。

ところで、未納学費を納付してほしいという通知を送った後、期限を過ぎても学費が納入されないので、学内の手続で除籍を決定し、明日にでも除籍の通知書を発送しよう、、、という段階になって、学費が納入されることがあります。
この場合、この学生さんは除籍になるのでしょうか。
次の記事では、この問題を考えてみようと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔


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★実務 私立学校法★
著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
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実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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除籍と退学の基礎知識

私学法と労働法の話題ばかりなので、久しぶりに学生・生徒に関わる法律の話をしようと思います。

学生・生徒対応は、学校法人の顧問弁護士としてお受けすることが多い類型の法律問題の一つです。
特に、非違行為や学費未納、複数回の原級留置などによって学生・生徒を退学(又は除籍)にする場合、訴訟等に発展する可能性もあります。

退学や除籍について考える前提として、在学契約の基本をおさらいしておきましょう。

ご存じの方も多いと思いますが、私立学校への入学は、法的には、在学契約の締結を意味します。
「入学したい!」という入学者側の意思表示と、「入学してほしい!」という学校法人側の意思表示が合致することで在学契約が成立し、学生・生徒の地位を取得することとなります。

民法などの法令に「在学契約」という条文はないのですが、学納金返還請求にかかわる著名な最高裁判決で、在学契約の法的性質が整理されています。(最高裁平成18年11月27日判決)
ざっくりまとめると、次のとおりです。

◇在学契約は、有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当である。

◇大学は、在学契約に基づき、学生に対して、講義、実習及び実験等の教育活動を実施する方法で教育役務を提供する義務と、これに必要な教育施設等を利用させる義務を負う。

◇学生は大学に対して、これらに対する対価を支払う義務を負う。

他にも大事なこと(学生は大学の包括的な指導、規律に服するとか)もいろいろ言っているのですが、在学契約の基本的な性格は、上記の3点に表れています。

ちなみに、「有償双務契約」とは、売買契約のように、契約当事者がどちらも義務(代金支払義務と目的物引渡義務とか)を負うタイプの契約のことです。
在学契約も、大学と学生が、教育の提供義務と学費の支払義務を負っているということですね。

除籍、退学など、学生・生徒がその地位を失う措置は、法的には、在学契約を解消するという意味です。
ということは、民法などに定められた契約法のルールが適用されます。

次回以降の記事で、除籍、退学と契約法のルールの関係をおさらいしていこうと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔


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著者:小國隆輔/著 定価8,800円税込
判型:A5判 ページ数:720頁
発刊年月:2024年5月刊



実務 私立学校法
小國隆輔
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2024-06-04



実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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災害時の休校のルール

鹿児島県に大雨の特別警報が発令されていましたが、先ほど大雨警報になったようですね。
少しでも被害が小さいことを祈るばかりです。

何年か前の記事でも触れたことがありますが、災害などがあったときの休校は、校長の権限で決めることができます。
 ※何年か前の記事はこちらからどうぞ。→ 警報と臨時休業

多くの場合、どのような場合に休校にするのか学則などで定めており、その定めに従って休校の判断をしています。

ただ、学則のアップデートをあまりやっていない学校だと、「暴風警報が出たら休校」とだけ定めていて、特別警報に言及していないことがあります。

普通に考えたら、警報が出たときより特別警報が出たときの方が、危険ですよね。
もし、「うちの学則では暴風警報しか休校にしないと書いている!」なんて言って、特別警報が出ているのに生徒に登校させて死傷者が出たら、法的責任は免れません。

細かいルールより生命身体の安全の方が大事ですから、何を守るべきか、優先順位を間違えないようにしたいですね(間違える人はほとんどいないと思いますが…)。


執筆:弁護士 小國隆輔


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実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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入学金と授業料の返還義務

桜も咲き始め、入学式のシーズンですね。

私学にとっては毎年の悩み事ですが、入学辞退者への学納金の返還のお話です。

入学までの流れは、
 ①受験→②合格通知→③入学金・初年度授業料等の納付→④入学式
といったものですよね。

他の学校に合格したなどの理由で、③入学金・初年度授業料等の納付の後に入学辞退をした場合、学校側はどの程度返還しなければならないでしょうか。
入学金を返還する学校はほとんどないので、授業料等について考えてみます。

前提として、入学金・授業料等を支払って入学手続を終えた時点で、学校法人との間に在学契約が成立します。
入学辞退は、法的には、在学契約の解除に当たるとされています。
で、契約を解除して授業を受けることがなくなったんだから、授業料等は返してよ、という話になるわけですね。

もし、入試要項などに「入学を辞退したら授業料等は返しません」と書いていなければ、辞退者には授業料等を返さなければなりません。
飲食店でもホテルでも、キャンセルしたらお金を払わなくていいのと同じ理屈です。

もし、入試要項などに「入学を辞退したら授業料等は返しません」と書いていれば、次のような処理をすることになります。(最高裁平成18年11月27日判決)
 ・専願であれば、原則として授業料等を返さなくてもいい。
 ・併願であれば、3月31日までに入学辞退の連絡をした者には授業料等を
  返さないといけない。
 ・併願であっても、入学辞退の連絡が4月1日以降だった者には、原則として
  授業料等を返さなくてもいい。※例外として、4月1日以降も入学辞退を
  受け付ける扱いだった場合(そのように誤解させる扱いだった場合も含む)、
  入学辞退の受付期限までに連絡をした者には授業料等を返さないといけない。

ほとんどの学校で、上記のルールを入試要項等に書いていますが、ときどき、「入学を辞退したら授業料等は返しません」と書いてないのに授業料等を返さない学校や、返さなくてもいい授業料等を返している学校があるので、入学辞退のルールは一度おさらいしておいてもいいと思います。


執筆:弁護士 小國隆輔

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実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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ちょっとだけ補足(コンプライアンス推進規程)

前回の記事に掲載したコンプライアンス推進規程の作成例について、ちょっとだけ補足します。

コンプライアンス推進規程第10条では、コンプライアンス違反やその可能性があった場合、職員は部局の長(部長とか校長とか)に報告することとしています。
で、報告を受けた部局の長は、自分で対応するか、重大事案の場合は統括責任者(担当理事)へ報告することになっていて、統括責任者は最高責任者(理事長)へ報告することになっています。

ややこしいのは、コンプライアンス違反やその可能性があった場合、いわゆる公益通報の対象になり得る点です。
公益通報の場合、通報先は部局の長ではなく、公益通報窓口(監査室や学外の法律事務所など)です。

コンプライアンス推進規程の手続と公益通報の関係はどうなるのか、気になるところですよね。

学校でも会社でもそうですが、法令違反や内部規程違反(あるいはその可能性)に気づいた従業員は、まず上司にホウレンソウをするのが普通ですよね。
で、ホウレンソウを受けた上司は、自分で対応するか、さらに偉い人にホウレンソウをするのが普通ですよね。
この普通の流れを定めたのが、コンプライアンス推進規程第10条と思ってもらえれば、大きな間違いはありません。

ところが、ホウレンソウを受けた上司が事案を放置した場合とか、法令違反をしているのが上司自身だった場合とか、余計なことを言ったら報復されそうな場合とか、普通の流れが機能しないこともあります。
このような場合に備えて、偉いさん(理事長とか理事会とか監事とか)へ情報を伝えるバイパスルートを作るのが、公益通報(又は内部通報)と呼ばれる手続です。

普通の流れと公益通報、両方の手続が整備されることで、法令違反や内部規程違反を見逃すことなく、適切に対応できることになる(はず)ということですね。

と言いつつ、両方の手続を整備してる会社で不祥事があったような気がしなくもない。


執筆:弁護士 小國隆輔

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実務 私立学校法 [ 小國隆輔 ]
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4月1日からの法改正

ブログを立ち上げてから長らく放置していましたが、
そろそろ記事を書き始めんといかんなー、と思い立ちました。

新年度になったので、4月1日から施行される法律の話題です。
とりあえず、学校の実務で影響が大きそうなものを、ざっと並べてみました。

◇民法(平成30年法律第59号)
 →成年年齢の引き下げ

◇個人情報保護法(令和2年法律第44号)
 →仮名加工情報の創設、漏えい事案等の報告義務化など

◇個人情報保護法(令和3年法律第37号)
 →行政分野と民間分野の統一、学術研究目的の例外規定の修正など

◇育児・介護休業法(令和3年法律第58号)
 →育児休業等に関する事項の周知・意向確認義務の導入、
  有期雇用労働者の育児休業等の取得要件緩和など

◇労働施策総合推進法(令和元年法律第24号)
 →中小企業へのパワハラ防止措置義務の適用開始


・・・個人情報保護法が2つありますね。

令和2年に大改正があり、令和4年4月1日施行とされていたのですが、
その施行日が来る前に、令和3年にも大きな改正がされてしまいました。

ということで、今年4月1日には、2つの改正が同時に施行されるという、
なんともややこしい話になっています。

それぞれの改正の中身は、また別の記事で。


執筆:弁護士 小國隆輔
事務所紹介
名称    :弁護士法人小國法律事務所
事務所HP:http://www.oguni-law.jp/
大阪弁護士会所属
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